オープン戦の最後。3月24日のオリックス戦の7回裏だった。この時点で1点リード。ここからどう逃げ切るか。阪神監督の岡田彰布が得意とする継投に入る。

この回、オリックスの先頭は紅林。そこでマウンドに送ったのが漆原だ。右対右で封じにかかる。計算通りにショートゴロに仕留めたところで、岡田がベンチを出る。漆原はワンポイントで、宗を迎えたところで左の島本に代えた。ここから左バッターが続くからの継投。レギュラーシーズンを想定した采配となった。

こういう作戦、昨年はことごとく成功した。その結果、石井や島本という優秀なセットアッパーが力を発揮。投手力が売りの阪神がより強固になった。

だが今年は…。島本は宗、森に連打を浴びて2失点。最終戦は逆転負けで終えることになった。

岡田の頭に計算違いが生じている。島本、石井という左右のセットアッパーの状態が上がらぬまま。シーズンを逆算し、試合の中でも逆算しての作戦を練る岡田にとって、セットアッパーの不調は計算外。シーズンに入っての試合運びに影響が及ぶ。

今年の阪神、やはり守りの戦いになる。投手力を含めたチームカラーは昨年同様。ここにきて先発組がそろってきて開幕を迎える態勢になったが、リリーバーが正直、見えない状況といえる。完投、完封が極端に少ない現在の球界。いかにブルペンを分厚くするかが、勝負の分岐点。ダブルのクローザーでいける目途が立った岩崎、ゲラにつなぐ6、7、8回をどうする? 島本、石井がこんな状態では心もとない。

「ブルペン勝負がペナントのカギを握る」とは岡田の口癖であり、基本的な考え方。充実のブルペンを構築するため、これまで多くの投手を試してきた。その中から岡留という新たな力が生まれたが、経験も実績もない。同様にドラフト2位のルーキー椎葉をキャンプでテストしたが、いつの間にか名前を聞かなくなった。

ベテランの岩貞に復調をねらう浜地。彼らも開幕に間に合うかは不透明で、質量ともに昨年を下回る状態といえる。そこで岡田は考える。浮かんだ投手が門別…。「そんなん、門別は先発よ。先発投手のタイプやし、それで育てていく」とこれまでずっと公言してきた。でも先発ローテーションにいまは入る余地はない。アクシデントがあった場合の先発という準備はあるけど、それまではセットアッパーとして、という考えがあるようだ。

「ひとりがダメでも、新しいひとりが出てくる。そういうもんなんよ、チームというのは」。昔から岡田はこう口にしていた。その新しい人材を掘り起こすのもベンチの役割。もう実戦でテストする機会はないけど、岡田はブルペンを差配するか。今年もブルペンがタイガースの命運を握っている。【内匠宏幸】(敬称略)