ヤクルト山中浩史投手(29)が、プロ初勝利を手にした。昨季途中にソフトバンクから交換トレードで加入した苦労人は、今季初先発の試合で6回7安打3失点で勝利投手になった。高津投手コーチのアドバイスを元に昨秋に投球フォームの改造に着手。新投法で西武牧田とのサブマリン対決を制した。ニューヒーローの活躍でチームは借金1に戻した。阪神が負けたため、3位タイに浮上した。

 自分の歩んできた時間は、間違いではなかった。山中は、ウイニングボールを九州東海大(現東海大)の先輩でもある松岡から受け取った。「実感はわかないですね。自信とか手応えも全くないです。ウイニングボールは両親に渡すと思います」。淡々と初勝利の味をかみしめた。

 新天地で初めてスターターを迎えた。6回を3失点。粘りの83球だった。山中の「短針」が、強力獅子打線を封じた。リリースの指先の向きを変えた。

 山中 今までは時計の針で言うと6時くらいのところから投げていたけど、今は12時なんです。

 高津投手コーチの助言だった。昨秋、「手首を立てるようにすれば、さらにスピードも上がるし、落ちる変化球もキレが出る」とアドバイスされた。最速は3キロアップの136キロになった。スライダーのキレにも変化を感じるようになった。

 新アンダースローで、社会人時代からの憧れでもあった西武牧田に投げ勝った。球界でもまれに見る下手投げ対決。「牧田さんよりは先にマウンドを降りたくなかった」の一心だった。

 春季キャンプから2軍暮らしを続けてようやくつかんだチャンス。見事に期待に応えた。開幕戦はテレビもつけなかった。「1軍に興味がなかった。ただ、腐らずにやっていこうと思っていた」。高校2年でサイドスローからアンダースローに変えた。ソフトバンク時代は、1年目で開幕ローテを経験。だが、2年目に待っていたのはトレードだった。いろんな出来事を経た。迎えた3年目。やっと1勝目を挙げた。新たな時を、これから刻んでいく。【栗田尚樹】

 ◆山中浩史(やまなか・ひろふみ)1985年(昭60)9月9日、熊本県生まれ。必由館-九州東海大-ホンダ熊本を経て、12年ドラフト6位でソフトバンクに入団。昨季途中に新垣とともに交換トレードでヤクルトに移籍し、中継ぎで9試合に登板して防御率6・75。175センチ、82キロ。右投げ右打ち。推定年俸1100万円。