阪神鳥谷敬内野手(34)がレジェンドに肩を並べた。球団歴代4位の「初代ミスタータイガース」藤村富美男に並ぶ通算1694安打。この日の中日戦でチーム唯一のマルチ安打で達成や。キャプテンのヒット量産こそ、勝利への近道だけに今日以降も頼むで~。

 巧みなバットコントロールだ。鳥谷が外角140キロ直球を美しく流し打ち、ライナーを左前に弾ませた。5番マートンの中越えソロで4点差に縮めた直後、7回無死。大野からの左前打は節目の1本となった。球団4位となる藤村富美男の1694安打に並び、また1つ猛虎の歴史に名を刻んだ。

 「これからも、1本でも多く打てるように頑張ります」

 試合後、多くを語ることはなかった。チームは難敵大野を打ちあぐね、2連敗で借金生活に入った。キャプテンとして勝利のみを追求する立場。「真っすぐにキレがありましたね…」。厳しい表情のまま、クラブハウスに消えた。ただ、積み重ねた記録が色あせることはない。2回に中前打で5戦連続安打を決めると、マルチ安打で大先輩の数字に追いついた。

 相棒との長い付き合いが熟練の技を証明する。ナイキ社製のバットは昨季、今季と33・5インチ、34インチの2種類を用意。14年は春季キャンプ中に各6本ずつの計12本を提供され、秋に日本シリーズを戦い終えるまで再注文することはなかったという。担当者は「1年で2、3本しか折らなかったんじゃないですかね」と目を丸くする。1年で数十本を折る選手も存在する中、卓越したミート力でコツコツ安打を製造している。

 かつて藤村富美男は38インチ(約97センチ)で「物干しざお」と呼ばれたバットを相棒に、生え抜きの強打者として「ミスタータイガース」の名称を手にした。時を超え、生え抜き12年目の鳥谷も今、名実ともに「ミスタータイガース」と呼ばれつつある。

 死球で負傷した背中付近の痛みを抱えながら、一切の言い訳を排除してプレーを続ける。10年ぶりのV奪回を成し遂げるためだ。常々、「シーズンが始まったら個人記録なんて気にしない」と話すキャプテン。メモリアルデーに浸ることなく、次戦の勝利だけに目を向ける。【佐井陽介】