故郷へ届け、この思い-。熊本市出身のロッテ伊東勤監督(53)がソフトバンク戦(QVCマリン)開始前に熊本地震の復興支援を呼び掛ける募金活動を行った。両軍選手とともに20分間、球場正面入り口に立った。ファンからの善意に涙を流し、言葉を詰まらせた。試合は無敗のバンデンハークを相手に互角の勝負。惜敗で首位陥落したが、今日からまたやり返す。

 1点差で敗れた伊東監督は「チームとして力はついた。切り替えて、また明日」と評価した。石川が力投。打線は8回2死満塁で角中が中前へ抜けそうな当たりを放ったが、ソフトバンク本多の好守に阻まれた。

 前向きに振り返ったが、試合前は心を大きく揺さぶられた。岡田、鈴木らに、ソフトバンクからも内川、和田らが加わり、募金活動の先頭に立った。ファンから「頑張って下さい」と声をかけられ、みるみる目を赤くした。右手で、左手で、しきりにぬぐう。1人1人の手を両手で握り感謝を伝えた。20分間、善意の列は途絶えなかった。帽子を取り、深く一礼。拍手に送られ、戦いの場へ戻った。

 直後に心中を問われ、うまく言葉が出てこなかった。「直接ね、自分の生まれ故郷が…。すまん、ちょっと…」。しばし沈黙の後、思いのたけを繰り出した。

 伊東監督 毎日、報道されて、見るも無残な姿を…。自分があそこに行けない悔しさ。被災された大変な方たちの姿を目にしたら、いてもたってもいられない。少しでも今、自分ができることが何かと考えたら、野球で勇気づけられたらと。でもテレビを見られない人、消息が分からない人もいっぱい。野球をやっていいのかとも思いますが、今日から本拠地。熊本の人たちに少しでも役立てばと。

 まさかの一報は遠征先で聞いた。熊本には、80歳になる母レイ子さんがいる。幸い、親戚も含めケガはなかったが、16日未明の「本震」で実家の中はぐちゃぐちゃ。大好きな故郷の惨状と、助けに行けない己の現状。締め付けられた。

 野球をやっている場合なのか-。声を震わせながらの正直な告白だったが、こう締めた。「安らぎの1つとして、野球が好きな人もいるでしょう。それどころではないと思いますが、とにかく頑張っていただきたい」。簡単に野球で励ますとは言えなかった。ただ、当初はこの日だけの予定だった募金活動を明日まで続けることにした。故郷への思いは間違いなく深かった。【古川真弥】