<日本シリーズ:西武4-6巨人>◇第3戦◇4日◇西武ドーム

 筋肉がピクリと反応する。「ゴーだ!」。脳が体へ指令を送ると、鈴木尚は即座に三塁へスタートを切っていた。「自分の中で瞬間的にいけると思った」。プロ12年で培ってきた“直感”だった。遊撃の中島は、快足を飛ばす背番号「12」の後ろ姿をちらっと見ることしかできなかった。

 持ち味が、凝縮されたシーンだった。1回表、先頭打者として石井一の初球を狙い打ち、二塁打で出塁する。2番木村拓も初球を打ったが、ほぼ正面の平凡な遊ゴロ。並の走者なら三塁は自重する当たりだったが、俊足を生かして三塁を陥れた。3番小笠原の初球は暴投となり、わずか3球で先制点を挙げた。

 積極果敢な姿勢は打席でも同じだった。1点リードの2回2死一、三塁、懐に入ってきたスライダーを左翼席に突き刺した。打たれた石井一はうなだれ、西武にダメージを与えるには十分すぎる1発。「甘い球が来たら、積極的にいこうと思っていた。しっかり振ることを意識していた」と振り返った。試合前にアドバイスを送った原監督は「4点すべてが(鈴木)尚広だったな。あの打球で(三塁に)いけるのは尚広くらい。主導権を握ることができたね」と、称賛した。

 日本シリーズ初戦の1日の朝だった。東京ドームに向かう直前に、4歳の息子から1枚の絵をプレゼントされた。画用紙には“パパの似顔絵”。愛息からのエールに、おやじは闘志をみなぎらせた。宿舎へ向かうバスに乗る直前、ヒーローの表情が再び戦士の顔に戻った。「(今日のことは)もう終わったこと。また明日から気持ちを新たにして頑張りたい」。お立ち台に立ったこの日を振り返るのは、頂点に立ったときだ。【久保賢吾】