<阪神2-2中日>◇9日◇甲子園

 阪神が投手まで外野を守らせる総力戦で首位も守った。中日との首位攻防戦第3ラウンドは5時間を超える死闘となり、延長12回引き分けとなった。延長10回にクレイグ・ブラゼル内野手(30)が退場処分を受けたが野手を使い切っており、急きょ西村憲投手(23)を右翼に起用した。さらに打者の左右に応じて左翼に入った平野恵一外野手(31)とポジションを4度も入れ替わるなど死力を尽くした。大きな引き分けで、早ければ10日にも優勝マジック17が点灯する。

 首位攻防戦という舞台で、前代未聞のドラマが起こった。伏線は9回裏の攻撃にあった。桧山の右前同点打で沸く甲子園。代走に小宮山を起用し、野手の控え選手はゼロ。この時点で、まさかの事態が発生するとは予想だにしなかった。続く10回裏1死満塁のサヨナラ機で、浅井が遊撃へのライナーを放った。あわててブラゼルが一塁に戻ったが、アウトの判定。助っ人はこれに激高し、暴言で退場の処分を受けた。真弓監督はベンチでぼう然とした。「あそこまでは考えてなかった…」。それもそのはず、代わりに守る野手が1人もいなかった。

 真弓監督や木戸ヘッドコーチ、山脇守備走塁コーチらが、輪になって協議を始めた。投手を守らせるしかない。リリーフ陣のリーダーである藤川球にも意見を聞いた。結論が出た。プロ2年目右腕の西村だ。「誰に聞いても、一番うまいというから」と真弓監督は説明した。ブルペンから呼ばれた西村はいつものマウンドではなく、右翼のポジションに走った。外野の守備に就いたのは、福岡工大城東高以来だという。「2、3年生のときに、外野の3つすべてを経験した」。とはいえ、プロの試合は別次元。投手用のグラブをつけて、立つ姿は違和感たっぷりだった。

 首脳陣はさらに思案した。西村をいかに守らせないか。「一番飛ばないところを考えた」と真弓監督は言った。藤川球らの球を引っ張るのは難しいと判断し、打席に右打者が立てば、左翼。左打者ならば、右翼。合計4度も西村の守備位置を入れ替えた。そのたびに西村は外野の芝生を横断する。「打撃練習のときに、打球を見ているんで、それをイメージした」。緊張しっぱなしで、11回からの2イニングを守った。藤川球、福原の力投もあって、守備機会はなし。ドラマはこれで終わらない。12回の攻撃では、打席が回ってくるおまけつき。新井の盗塁死でゲームセットとなったが、“最後の打者”になった。「次はピッチャーで貢献したい」と胸をなで下ろした。

 負ければ、首位陥落の試合で、まさに全員野球でドローに持ち込んだ。真弓監督は疲れ切った表情で振り返った。「(9回は)もうイチかバチかで、とにかく追いついて、ということ。引き分けられてよかった」。何をやるか想像もつかないのが、今年の阪神。ゲームセットの瞬間、ベンチは出番を終えた選手であふれかえっていた。5時間21分の死闘は勝利に等しかった。球史に残る一戦は優勝へのターニングポイントになるかもしれない。【田口真一郎】

 [2010年9月10日9時3分

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