<セCSファイナルステージ:中日2-1ヤクルト>◇第5戦◇6日◇ナゴヤドーム

 去りゆく指揮官に最高の花道が用意された。中日がクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第5戦を制した。リーグ優勝による1勝のアドバンテージを含めて4勝2敗とし、2年連続の日本シリーズ進出を決めた。0-0で迎えた6回に落合野球の申し子・井端弘和内野手(36)が決勝2ランを放ち、粘るヤクルトを退けた。今季限りで退任する落合博満監督(57)はパ・リーグ王者ソフトバンクを相手に自身初のリーグ、シリーズの完全制覇をかける。

 花道にはまだ続きがあった。勝利の瞬間、落合監督は素直に笑った。スタンドから無数の紙テープが投げ込まれる。「私はもう、ただ見守っているだけでした。選手たちはのびのびとやってくれたと思います」と大歓声に応えた。ラストシーズンは、10ゲーム差を逆転してリーグ連覇。花道にふさわしい最高の舞台まで用意された。目にはうっすらと光るものがあった。

 悲願とする完全制覇への第1関門だったが、揺るぎない自信を持っていた。神宮でのCSファーストステージは自宅で見ていた。隣の信子夫人が聞いた。

 「あんた、どっちが来た方がいいの?」

 落合監督はこう答えたという。

 「どっちでもいいよ。どっちが来ても、その相手に合わせたメンバーで戦うだけだから」

 9月22日の監督退任発表からチームは突っ走り始めた。それを見て言葉は必要ないと判断した。最善の策を用意しグラウンドに送り出すのみ。自信の源はナインとの間に生まれた「絆」だった。

 ただ、土壇場では短期決戦を勝ち抜くための「非情」も見せた。2点リードの9回、守護神岩瀬が青木に適時打を浴び1点差に迫られ、なおも2死一塁。打席に4番畠山を迎えた。ベンチを出た落合監督は岩瀬の背中をそっと抱いて交代を告げた。岩瀬から浅尾。執念を感じさせる異例のリレーで勝ち切った。6回には一塁走者・荒木を走らせ、井端の快打を後押しした。「オレは何もしていないよ。見ていただけだ」。にやりと笑って、うそぶいたが、勝敗の分岐点を見極め、選手を動かした。

 待っているのはパ・リーグ王者ソフトバンク。落合監督にとっては8年間待ち望んだ相手だ。「やっとソフトバンクと戦えるな。王さんとの約束だったから」とつぶやいた。就任1年目の04年、リーグ優勝した。パ・リーグの1位は王監督率いるダイエー(当時)。シーズン終了後、最高の打者と尊敬する王監督と「日本シリーズで会いましょう」と約束を交わした。だが、その年から導入されたプレーオフでダイエーは敗れた。昨季も顔を合わせたのは王者ソフトバンクではなく3位ロッテだった。かつてセ・リーグでプレーオフ導入案が持ち上がったときには真っ先に異を唱えた。しかし導入が決まればルールには従う。それが落合流でもある。

 中日の監督として最後の日本シリーズは切望していた王者同士の戦いになった。5度目の出場だが、まだ1度もペナントレース、日本シリーズを制覇したことはない。最高の舞台で、最高の相手に勝って、日本一-。ふさわしい花道が用意された。【鈴木忠平】