【94年12月4日の日刊スポーツから】

 ダイエーのドラフト1位指名・城島健司捕手(別府大付=18)がプロ入り表明した。3日、王貞治監督(54)根本陸夫専務(68)らが大分・別府の同校を訪問。恋人・城島と初対面を果たした王監督に城島本人が「ダイエーにお世話になりたい」と発言、交渉後に入団を内諾した。ドラフト強行指名以降、王監督の2度にわたる「直接出馬」に城島は早くもプロでの活躍を誓えば、王監督も「自分のもとでトレーニングさせたい」と、来春の豪州キャンプからアーチストとしての「英才教育」に乗り出すことを明かした。背番号は「2」が有力。

 強行ドラフトから15日。悩み続けた若き城島の心を世界のアーチストがピタリととらえた。先月22日の初訪問では、その姿を見ることさえかなわなかった王監督だが、それから10日あまりで二人のハートはひとつにガッチリ固まった。別府大本館6階の応接間で待ち受けた「恋人」城島から待ちに待ったセリフが王監督のもとに返ってきた。

 「王監督さんのもと福岡ドームでプレーがしたい。お世話になりたいです。よろしくお願いします」。ガッチリ握手を交わし、迷いをぬぐい去った晴れ晴れとした口調で城島は言い切った。

 約1時間の会談の席では打撃論を早くも展開。あこがれの人を目の前にプロでの活躍を誓ってみせた。「ダイエーといえば、真っ先に(城島と)名前が出てくるような選手になりたい」。駒大進学表明からドラフト1位指名。悩み抜いた末に尊敬する王監督の熱意に打たれプロ入りを決意した経緯があるだけに、「初対面」に18歳の青年の心が躍らないはずがない。会談では、世界のビッグ「1」を前にしても動じることはなかった。「打席に入ってからの呼吸法はどんな風にされているんですか?」と、868本塁打の世界記録保持者さえ考えたこともなかった質問を投げかけたほどだった。

 「自分では考えたこともなかったし、ビックリした。高いレベルでの打撃に対する取り組みをしているし、考え方も深いものを持っている」と、予想以上の「逸材」に王監督自身が度肝を抜かされた格好となった。恋人との初対面に王監督は早くも「英才教育」を誓う。「将来は日本を背負うバッターになってほしい」と、あらためて力説。来春の豪州キャンプに帯同させ「基本的には自分と一緒にトレーニングをやらせたい」と、王監督自らアーチスト城島の育成に乗り出す考えがあることを明らかにし、会談中には城島本人に「早く君にホームランを打った感触を味わわせたい」と、言い切ったほどだった。

 ちょうど3年前。佐世保の野球教室で直接指導を行った少年・城島と何とも劇的な再会を果たしたのも何かの縁かもしれない。自らが歩んだ道を託すように「和製ホームランバッターになってもらいたい」と、大きな期待を寄せた。

 もちろん、そんな期待に城島もこたえる覚悟だ。背番号は「2」が有力。会見の席では「プロ入りかどうか悩んでいたんで」と、即答を避けた城島だが「もらえるなら若い2番がいい」とキッパリ。会談後は「プロ始動」に向けさっそく室内練習場で約30分の打撃練習だ。城島の心を象徴するような快音を響かせていた。◆城島と一問一答◆--王監督との対面を終えた現在の心境は城島目標としていたあこがれの王監督の口からあらためて、高い評価をしていただき感動しています。--ダイエー入り内諾と考えていいのですか城島ダイエーにお世話になりたい、王監督のもとで、福岡ドームでプレーしたいとはっきり伝えました。--ダイエー入りを決意したポイントは城島前(先月22日)に王監督から「ダイエーだけじゃなく、球界を背負って立つ選手」と言っていただいたことが、プロを決める最大の言葉でした。--中学3年(長崎県佐世保市・相浦中)のときに、野球教室で王監督に会って以来、約3年ぶりの再会ですが城島野球教室で会った時は既にプロに入りたかった。どこかでまた王監督に会いたいと思っていましたが、今、最高の形で実現できたことをうれしく思います。--王監督にどのようなことを尋ねましたか城島打撃中の呼吸方法やバットの選び方など、王監督が現役時代にされていたことを質問してみました。--印象に残った言葉は城島ホームランを打ったときの感触を早く味わわせたいと言っていただきました。--プロに入ってからの目標は城島一つ一つの努力を重ねて、ダイエーといえば真っ先に自分の名前が出てくるようになりたい。--王監督は捕手以外で起用を考えているみたいですが城島まだ実感がわかないけど、これからは(野球が)仕事になる。ぜいたくを言わず、どこでもやっていきたい。--背番号は2、22が有力ですが城島もらえるものなら若い2番をつけたい。--今の率直な気持ちを城島駒大の太田監督、別府大付の糸永監督、木許(きもと)校長には、自分のわがままで大変迷惑をかけた。努力を重ね、一日でも早くいい選手になって最高の恩返しをしたい。◆城島経過◆◆10月4日駒大推薦入試合格発表。「太田監督の“全日本の4番になってアトランタ五輪を目指そう”という言葉に心打たれました」。◆11月13日アマ王座決定戦を観戦して。「100%プロ入りはありません。指名されても駒大に進学します」。◆同18日ダイエー1位指名を受けて。「本当に指名されるとは思わなかった。揺れる気持ちはあるが、大学で野球する気持ちに変わりはありません」。◆同19日家族会議のため実家に帰省。「駒大に行く気持ちに変わりはない。両親に会うのは確認のつもり」。◆同20日19日夜の家族会議を終えて。「大学の気持ちが強いがダイエーにつっけんどん(無愛想)な態度はしたくない。駒大、ダイエーの自分に対する評価を聞いてみたい」。◆同23日22日に学校を訪れた王監督の評価を聞いて。「正直言って気持ちは揺れてます。王さんの“ダイエーのためだけじゃなく、球界のために入ってくれ”という言葉にじーんときました」。◆同28日駒大入学辞退、高校野球連盟に退部届を提出。「日本高校野球連盟から正式に受理の話がきたらハッキリ答えます」。◆同29日駒大入学辞退、退部届提出から一夜明けて。「ゆっくり考えたい。あとはノーコメントです」。◆12月2日王監督との対面を前日に控えて。「あす(3日)になればすべて話します」。☆城島アラカルト◆生まれ1976年(昭51)6月8日、長崎・佐世保市生まれの18歳。◆サイズ182センチ、82キロ。右投げ右打ち。足は30センチ。胸囲は110センチを超える。視力はともに2・0。◆力握力は60キロとそれほどでもないが、ベンチプレスでは120キロを上げる怪力。背筋力は220キロ。パワーの源は毎日欠かさない筋力トレーニングと、一日に2リットル飲む牛乳。遠投は120メートルの強肩。50メートル走は6秒3。◆高校時代プロ志望だったため、佐世保出身ながら過去プロに選手を輩出している別府大付へ野球留学。入学式翌日の公式戦に4番・捕手で出場、いきなり左中間へホームランを放った。高校通算70本塁打は巨人松井の60本を上回る。◆趣味父昭司さん(50)の影響で、釣りが趣味。それも本格的な海釣りが好き。高校に入学してからは、実家に帰省したときにしかしていない。◆落合ファン巨人落合の打撃にあこがれている。落合の打撃フォームの分析写真を研究した。「全部じゃなく自分に足りないものを吸収したいと思った」。◆自動車学校ほかの3年生野球部員とともに、自動車学校に通っている。ドラフト問題で周囲が騒がしくなったこともあり、2日現在で第2段階。「1月までには取りたい」。◆むとんちゃく服装には全く興味がなく、服は二人の姉が買ったものを、実家に帰省した際にもらう。◆家族父昭司さん(自営業)母朋子さん(46)姉奈緒美さん(26)香理さん(24)。