<ヤクルト3-1広島>◇23日◇神宮

 極限状態に追い込まれていた。ヤクルトのドラフト4位ルーキー江村将也投手(25)は8回2死一、二塁でマウンドに上がると、広島の代打前田智に死球を与えた。広島出身で「小さい頃からずっと見てきた方」と憧れる打者に、激高しながら詰め寄られた。「頭は真っ白で、帽子を取って固まってしまいました」とぼうぜん。両軍がマウンド付近で入り乱れる中「涙目になりますよ。やばいと思いました」と青ざめた。

 だが、それも一瞬だった。荒木投手コーチから「また出て行ってやるから思い切っていけ」と声を掛けられ、仲間は「大丈夫だ」と励ましてくれた。「びびって投げることだけはやめよう」と腹をくくった。

 同点の8回2死満塁。チェーンで結んで首からかけている結婚指輪に触れて気を静め、ルイスをにらんだ。「思い切り腕を振った」と死球と同じ直球で三振に仕留めると、ガッツポーズをしながら、ほえた。その裏に味方が2得点してプロ初勝利。「素直にうれしい」と喜んだが、帰り際に前田智の骨折が判明すると「どうすればいいですか…」と動揺で再び固まった。

 それでも、左打者を封じるすべがプロでの生きる道になる。春季キャンプから「150キロを投げられるわけじゃないし、外角だけだと確実にやられる。左打者を全力で完璧に抑えられるようにしたい」とシュートと直球を磨いた。持ち球で恐れずに攻め、故障者続出で台所事情が苦しい最下位のチームを救った。

 「頭が真っ白で覚えていない」と言いつつ乱闘から体を張って江村を守った荒木コーチも「チーム状態も苦しいし代える気はなかった。今日は良かった」とたたえた。「もっといい場面で投げられるようになりたい」と話す度胸満点の肝っ玉ルーキーが、チームの連敗を5で止めた。【浜本卓也】

 ◆江村将也(えむら・まさや)1987年(昭62)7月5日生まれ。広島出身の25歳。佐野日大、日大、ワイテックを経て、12年ドラフト4位でヤクルト入団。マウンド度胸に定評があり、武器は切れのある直球とスライダー。ロッテ江村直也捕手(20)は実弟。180センチ、72キロ、左投げ左打ち。