11月15日、両国国技館で行われた天龍源一郎引退試合での天龍-オカダ・カズチカ戦は、プロレス史に残る試合だった。昭和のプロレス対平成のプロレス。かみ合うはずのないものが、2人のプロ中のプロの手によって、見応えのある、予想を覆す戦いとなった。

 天龍は昭和のプロレスを、心を打つプロレスといい、平成のプロレスをハイテクのプロレスという。相手のワザをすべて受けきり、痛みや苦しみに耐えに耐えて反撃する反骨の戦いが昭和なら、緻密に計算され尽くした極限の返しと、そこにストーリーを展開していく現在のプロレス。両国に詰めかけた観衆や、マスコミまでも予想がつかなかった戦いは、17分27秒という時間を超えて、見る者を感動させた。

 オカダのドロップキックを何度も浴びながら、執念で立ち上がる天龍。追い打ちをかけるオカダの非情に、天龍もグーパンチで意地の反撃。コーナーに背中をつけながら、必死にオカダを抱え上げたパワーボムは、最後まで持ち上がらなかったが、そこに天龍の「ナニクソ!」という気持ちが伝わってきた。

 今年1月31日、故ジャイアント馬場さんの17回忌後楽園大会で試合をした天龍を見た全日本の渕正信は「リングには上がるけど、ほとんど動けなかった。引退試合は本当によく頑張ったよ」と話した。実は、引退試合前に、全日本が道場を提供し、天龍はそこでオカダ戦に備え練習していたという。65歳で、引退試合をシングル戦にするもの異例なら、オカダという現役最強の男を選ぶのも異例。誰もが無理だと思う戦いに、あえて挑むのも天龍らしいが、それも最後まで怠らなかった厳しい練習に裏打ちされたものだった。

 引退試合の後、大の字に伸びている天龍に、オカダは頭を深々と下げた。試合の中で、今後のプロレス界を託した天龍の思いを、オカダはしっかりくみ取っていた。「オレはやるだけのことはやった。自分のやりたいことは、すべてやり遂げた。だけど、オカダに負けたことはしゃくにさわったから、試合後の会見のときは、早く終わって家に帰ってさっぱりしたいと思っていたんだ」と天龍は後日、話した。

 また、後を託したオカダには「これからが彼のプロレス人生のスタート。トップの気持ちはトップの人間にしか分からないからね。それにふさわしい選手だよ」。天龍からオカダへ、プロレスの魂は、確かに引き継がれたと思う。【プロレス担当=桝田朗】