最近、朝稽古で各部屋を回る中で、何とももどかしいことがある。あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たずで…。

 例として8日のことを挙げよう。この日、ある力士の現状取材のため、某部屋に足を運んだ。その力士が稽古をやっていれば、帰宅する際に外で話を聞く。そこで待っていると、日本人女性ガイドに連れられた4人の外国人観光客がやって来た。その女性いわく「稽古を見学したいんですが」…。報道陣も立ち入れない通例があることを伝え、近辺の他の部屋を紹介した。実はこの部屋が3部屋目らしく、全て「満員のため」「稽古に集中したいため」と断られたという。

 私の取材は、お目当ての力士がこの日は部屋に来ないことが分かり撤退。彼らのことが気になり、案内した部屋に行ってみた。すると「ここもダメですね」。手書きで「一般の方の稽古見学お断り」の文字。あまりに気の毒だから、また他の部屋へ今度は、私が案内役となって回った。だが、行く先々の部屋でも「一般の方はお断り」などの理由で全て空振り。両国国技館内の相撲博物館を紹介したが「静止しているものでなく、ライブが見たいんだ」と、その外国人が言う。聞けばイスラエルからの観光客で、その日のうちに帰国の途に就くが、一番の楽しみとして最後に相撲部屋の稽古見学を日程に入れていたそうだ。「イスラエルではテレビで大相撲中継が見られます。生で間近で見たかったんですが…」。これ以上、回っても昼近くになり稽古は終わっている。残念でしたね、と声をかけると肩を落としながら引き揚げていった。

 今年の初場所を挙げるまでもなく、相撲人気は確実に上がっている。両国国技館はオールドファンはじめ若者、そして外国人観光客であふれている。何とか、その外国人にも稽古を見てもらえないだろうか。ファンも国際化となれば、別の側面で相撲人気も上がるはずなのに。

 ただ一方で各部屋の、一般ファンや外国人お断りの事情もある。稽古見学をツアーの1つとして料金をとって実施している例もある。また見学中の私語などマナーにも問題があるという。われわれ取材陣が、あぐらから正座に姿勢を変える仕草でも敏感に察し、申し合いの立ち合いを止める力士もいた。それほど稽古場は、神経を研ぎ澄ませる神聖な場所なのだ。

 そのことを外国人ファンには説明した上で十分に理解してもらい、日本人を含め一般人の稽古見学も相撲協会で一括管理する。そんな方策があれば、ちょんまげ姿の「サムライ」を楽しみにしていた、あのイスラエル人の“悲劇”も回避できたかもしれない。【渡辺佳彦】