WBO世界ミニマム級2位福原辰弥(27=本田フィットネス)が同級1位モイセス・カジェロス(メキシコ)を2-1の判定で下し、初の世界戦を制した。暫定ながら熊本県内のジム所属選手で初の王座獲得は、昨年4月に地震があった郷里へ贈る最高の結果。自らも被災した苦境から立ち上がり、価値ある勝利を挙げた。今後、負傷で休養中の王者の高山勝成(仲里)との対戦が待つ。

 左目は5回から見えなかった。セコンドの声に、会場からは「フ・ク・ハ・ラ!」の大合唱が響く。熊本にこだわって開催にこぎ着けた会場に背中を押され、福原は引かなかった。「皆さんのおかげで勝つことができました!」。33年ぶりの熊本での世界戦。左目が見えなくても、こん身の左ボディーはカジェロスの腹をえぐり続け、9回には棒立ちさせた。判定での勝ち名乗りを受けると、右目だけで中空を見つめた。

 昨年4月、2度の震度7の地震に身を揺らした。小学校から公園での車中泊へ。避難生活を続け、わずかな日常に帰ったのは1週間後。ジム再開とともに、市内へロードワークに出た。「見慣れない景色ばかり」。公園には土のうが積まれ、熊本城にも被害は見て取れた。「悲しかった」。ただ、走るのはやめなかった。その先に王座があった。

 高1、停学中に本田会長の門をたたいた。「本当にしょうもないけど」とたばこでの失敗を振り返る青年は、その指導で右構えをサウスポーに変え、地元に残り、この日地元の希望となった。次は高山との統一戦が待つ。「まだ世界チャンピオンのレベルじゃない。もっと練習したい」。光はともし続ける。【阿部健吾】

 ◆福原辰弥(ふくはら・たつや)1989年(平元)5月8日、熊本市生まれ。08年にプロデビュー。15年に日本ミニマム級王座決定戦を制して新王者になり、3度防衛に成功。29戦19勝(7KO)4敗6分け。左ボクサーファイター。163センチ。