<プロボクシング:WBC世界スーパーフェザー級王座戦12回戦>◇26日◇愛知・日本ガイシホール

 元WBC世界フェザー級王者粟生隆寛(26=帝拳)が完勝で2階級制覇を達成した。WBC世界スーパーフェザー級王者ビタリ・タイベルト(28=ドイツ)から3回に左強打でダウンを奪うなど、アテネ五輪銅メダリストの技巧派を3-0の判定で破り、兄貴分の長谷川に勝利のバトンをつないだ。09年7月にフェザー級王座から陥落したが、1階級上げて減量苦から解放され、天才が輝きを取り戻した。粟生の戦績は20勝(9KO)2敗1分け。タイベルトは2度目の防衛に失敗した。

 粟生の体が、自然に反応した。3回、タイベルトの左より一瞬先に、左ストレートをあごに命中させた。「『あっ!』って感じでした。ガツンと手応えはありました」。相手の写真を見て「左フックの時に右ガードがあくな」と感じていた。そのイメージを体現してダウンを奪った。その後もボディー攻撃を軸にペースを握り判定勝ちした。

 2階級制覇にも「すっきりしない内容」と笑顔はなかった。だが、その後は涙で言葉にならなかった。「長谷川さんのお母さんが亡くなって…少しでも勇気づけられたらというか…」。長谷川を兄と慕い、何度も合同合宿をしてきた。自分が世界初挑戦で敗れた時にも「すごい勇気をもらった」と言って、激励してくれた。そんな兄貴分が、大一番を前に最愛の母を亡くした。「オレが負けたらつなげられない」。粟生は腹を決めてリングに立った。

 だからこそ強豪王者から逃げなかった。タイベルトはアテネ五輪銅メダリストでアマ戦績150戦135勝の技巧派でダウンの経験もない。そんな強敵と真っ向から打ち合い、ダウンも奪った。1発を狙う相手の反撃に、8、9回に苦しくなってきたが、長谷川が脳裏に浮かんだ。「気持ちを後押ししてくれました」。試合後、緊張の糸が切れたように、新王者はむせび泣いた。

 昨年3月にフェザー級で悲願の世界王座に就いたが、わずか4カ月で手放した。約10キロの減量も影響した。今回は1階級(1・8キロ)上げて万全の体調に仕上げた。パワーにスピードで対抗すべく、昨年11月からのフィジカルトレーニングで体幹も強化。指導する中村正彦フィジカルトレーナーが「太もも裏、おしり回りの筋力は前への推進力には必要不可欠。もも裏のボリュームが全然変わりました」と言うように、下地をきっちり作った。「(転級は)いい選択でした」と、決断に胸を張った。

 2本目のベルトを手にした直後、兄貴も同じ緑色のベルトを手にした。「強い王者になりたい」。兄貴とともに偉業を成し遂げた粟生の涙は乾き、笑顔が広がった。【浜本卓也】