WBC世界スーパーフライ級王者の佐藤洋太(28=協栄)がアルバイトをこなしながら長期防衛を狙う。同級1位シルベスター・ロペス(24=フィリピン)との初防衛戦(8日、横浜文化体育館)に向け3日、都内ジムでスパーリングを公開。上京した9年前からアルバイトを続ける都内のガソリンスタンドで働く。時給は1000円。元WBA世界ライトフライ級王者の具志堅用高氏を含め協栄ジムの世界王者はアルバイトを続けた例が多い。王者になっても慢心せず、ハングリー精神を保って防衛を重ねる。

 佐藤の1日は、朝6時に起きることから始まる。ロードワークに出掛けるわけではない。自宅そばのガソリンスタンド「エネオス小金井店」に向かう。「2年前からアルバイトの自分がカギを預かっている。店を任された責任感が誇らしいんです」と充実の笑みを見せる。

 18歳だった9年前から続けてきた。以来週5回、ボクシングと同じ熱意を持って働く。危険物取扱者の資格を取り、今は時給も800円から1000円に上昇。副業を持つプロボクサーは多いが、さすがに世界王者になれば、ボクシングに専念する選手が多い。だが、日本最多12人の世界王者を出した協栄ジムではアルバイトが常識だった。

 日本人最多13度の防衛記録を持つ元WBA世界ライトフライ級王者の具志堅用高氏も5度目の防衛までは飯田橋のとんかつ店「ひろかわ」で働いた。元WBA世界フライ級王者の坂田健史氏も、協栄ジム内で健康食品の発送、デスクワークをこなした。同ジムで30年以上トレーナーを務める大竹重幸氏(54)は「お金どうこうではなく、生活のリズムを保つためにもいい」とアルバイトの勧めを説いた。

 佐藤も「今までの生活を崩して、歯車が狂うのが怖い。仕事を辞めたら遊んじゃいますよ」と話す。仕事内容も大好きで、得意は営業。ワイパー、タイヤ交換などの販売数は店でもトップクラスだ。「変則的な自分のボクシングは駆け引き勝負。人との対話も駆け引きが大事。セールストークはボクシングに共通しますよ」と本業にもいかしている。

 アルバイトは10年目。今では店に、トランクス、ガウンを作ってもらうなど、手厚いサポートを受ける。「試合に勝つことはもちろんですが、店のお客さんを増やし、営業の数字を増やすことが、最高の恩返しになる」。長期防衛を続けてもアルバイトは辞めない。【田口潤】