角界の2人のレジェンドが、引退危機に陥った。西前頭11枚目の旭天鵬(40=友綱)は、東前頭4枚目の安美錦(36)に敗れ、幕内残留が絶望的になる11敗目。十両陥落なら引退を公言しており、相撲人生の岐路に立たされた。西十両11枚目の若の里(39=田子ノ浦)は、同3枚目旭日松(25)に敗れ10敗目で、幕下陥落が濃厚。92年春場所初土俵の同期2人は、現役引退が現実味を帯びてきた中、千秋楽の一番に臨む。

 土俵を割った瞬間に顔をしかめて、思わず天を仰いだ。これまで土俵の上では決して感情を見せなかった若の里から、自然に出た表情。「10敗が1つの区切りだと思っていました。ついに10敗したか…そんな感じでした」。十両残留のラインは9敗。それを割った。「受け入れたくはないけど、現実を受け入れて、今後どうするか考えなきゃいけない」。静かに話した。

 12日目で9敗した時点で、残りを「トーナメント」と見立てていた。初戦を乗り切り、この日は準決勝。だが、旭日松に立ち合いで押され、なすすべなく土俵を割った。「昨日と今日は特別な気持ちで土俵に上がりました。なんとか今日、明日と2日、望みをつなげたかったんですが…。悔しいですけど、これが今の実力です」と受け止めた。

 数度も手術を経験した両膝はボロボロ。場所前、十両から陥落した場合について、こう言及した。「ハッキリとは決めていない。ただ、幕下では取れないでしょう。幕下で取るつもりはないですね」。

 三役連続在位は史上最長の19場所を数え、その間に大関とりも経験した。誇りもある。支度部屋では「いろんな選択肢があると思う。部屋に帰って決断したい」と話した。愛知・長久手市の宿舎に戻り、師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)と話した結論は「明日(千秋楽)は出ます。存分に取ります」。相撲をとことん愛し、ボロボロになっても現役にこだわって取り続けてきたベテランの進退は、最後の一番が終わってから決まる。大きな決断の時が迫った。【今村健人】