負けて舞う座布団を見るのは、初めてだった。横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)は大きなため息をつきながら、花道を引き揚げた。

 左上腕付近の負傷から、どう回復したのか。満員札止めの館内で最も注目を浴びた結びの一番で、見せ場をつくることはできなかった。「(左腕は)悪くはないですけど、相手が強いから負けたんじゃないですか。相手が上回ったのではないですか」と淡々と話した。

 分厚いテーピングを施した左腕は、得意のおっつけにはいかず、差しに出た。だが、反対に小結嘉風(35=尾車)から強烈なおっつけを食らう。上体が浮き、押される。左は全く使えず、右から突き落としに行くも、不発。防戦一方のまま、土俵を割った。

 審判長を務めた二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は、場所前の一門の連合稽古で横綱の稽古を見ていただけに「一方的だったね。(左は)使えていない。使えていないのか、使えないのか。立て直さないといけない。出る以上は頑張らないと」と叱咤(しった)した。

 不安な船出となったが、稀勢の里は「また明日、切り替えてやるだけ。集中してやりたい」と気持ちを切らさずに言った。