進退の懸かる横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、完敗した。得意の左四つに持ち込めず、小結御嶽海に押し出された。

昨年秋場所千秋楽、同九州場所初日からの4連敗と合わせ、不戦敗を除いて6連敗。見守った横綱審議委員会(横審)の面々からは不安の声が上がった。今日2日目は西前頭筆頭の逸ノ城と対戦する。

1度も主導権を握れないまま、稀勢の里はあっけなく土俵を割った。立ち合いから押し込んでも、実際には御嶽海の術中にはまっていた。左をねじ込んで得意の左四つに持ち込みたかったが、固められ、おっつけられた。苦し紛れの突き落としを残されると、体勢を入れ替えられ、腰を落とした万全の相手に押し出された。進退の懸かる場所で、過去6勝1敗と合口の良い相手に痛すぎる黒星発進。3場所にわたる6連敗は、横綱として歴代2位の不名誉な記録となった。

引き揚げる際には首をひねり、天井を見上げる場面もあった。支度部屋では、左差しを狙っていたのか問われ「はい」と、声にならないような声で回答。あとは「ここからという気持ちか」など、2日目の逸ノ城戦以降の修正に前向きな気持ちか確認する質問に2度「そうですね」と答え、時折ぼうぜんとしていた。

昨年11月の九州場所で、初日から4連敗(不戦敗を除く)を喫し、途中休場した。横審から史上初の「激励」を決議され、今場所の奮起を促されていた。この日は横審の本場所総見。観客席から見守った北村委員長は「残念ですね。まだ初日。これからがあるといっても、あそこで頑張りきれない。場所を全うできるのか不安になる。バタバタ感がある」と神妙に話した。

一昨年3月の春場所で横綱に昇進以降、これで初日は2勝6敗となった。過去5敗の場所は、すべて途中休場に追い込まれている。データ通りなら途中休場。進退の懸かる今場所は、途中休場に相当する成績なら引退になりかねない。前日12日には「順調にやれた」と、ここまでの調整は万全だと強調。だが多くの親方衆や解説者らからは、稽古量不足を指摘されていた。

入門当時から指導を受けていた、故人の先代鳴戸親方(元横綱隆の里)からは「心臓から汗をかけ」とハッパを掛けられ、猛稽古で強くなってきた。この言葉は先代鳴戸親方が、さらに師匠である元二子山親方(元横綱初代若乃花)から言われたもの。稀勢の里も節目で言われてきた言葉で、関係者によると、稽古量だけではなく、土俵に命を懸ける心意気を示せという意味もあるという。いよいよ後がなくなった今こそ、命懸けの取組を、ファンは待っている。【高田文太】