ドラマシリーズ「北の国から」で知られる脚本家倉本聡さん(80)が舞台活動から引退する意向を明らかにした。「80歳を超え、体力的に衰えてきた。再来年に予定する舞台『走る』を最後に、舞台はもうできないんじゃないかと思っている」。

 「北の国から」をはじめ、「前略おふくろ様」「昨日、悲別で」、映画「駅 STATION」の脚本で知られる。84年に北海道・富良野に俳優や脚本家を養成する「富良野塾」を主宰して以降、舞台活動も積極的に行い、東京でも年1本の作品を上演してきた。舞台活動からの撤退表明は年齢的な体力の衰えだけでなく、もう一つ理由がある。倉本さんは舞台作品を通して、日本のあり方に懸念を示すメッセージを発信した。しかし、それがなかなか届かないことへのもどかしさが撤退を決めた一因にあるようだ。

 来年1月の富良野GROUP公演「屋根」は北海道・富良野の開拓小屋で結ばれた農家の夫婦の半世紀以上に及ぶ物語。1つの家族の歴史を追いながら、時代を超えた本当の幸せとは何かを問いかける。「消費者である都会が幅を利かせ、食糧を作る農村がないがしろにされて疲弊している。国から使い捨てにされる棄民の話。今の日本人はひきょうになり、覚悟もない。情けない日本人に怒りをぶつけたい」と話した。

 今年上演した「夜想曲 ノクターン」も福島原発の事故で避難を余儀なくされた人々が登場するし、ドラマ、舞台でもやった「昨日、悲別で」は炭鉱の閉山で離散する人々を描いた。常に国の無策にほんろうされる人々の悲劇を取り上げてきた。舞台にかけた思いは見た人に届いても、観劇人口が減る中で、広がらないことへのもどかしさもあった。倉本さんにその点を聞くと、「それもあるかもしれない」と否定しなかった。かつて、盛んだった頃の新劇は「反体制」を掲げる存在で、人気があった。しかし、今は新劇の力も衰え、楽しい演劇に人気がある。今回の舞台撤退表明は、新劇の衰退を示すことかもしれない。