劇作家で俳優の野田秀樹(62)に驚かされた。62歳で第3子となる男児のパパになっただけでなく、若手俳優養成に本格的に乗りだすことを発表したことだった。62歳といえば、会社員なら定年で再雇用の身で、老後のことを切実に考え始める年齢だろう。それなのに、子育てと俳優育成という、大変なことに挑む、野田の気持ちの若さに感嘆した。

 先日、会見を行ったが、会見直後に男児が生まれたこともあって、「子どもを作れるくらいだから、時間がない訳じゃない」と自虐的なコメントの後に、俳優養成の構想を明かした。

 野田はこれまで公演ごとにオーディションを行い、若い俳優たちと接してきた。「将来、いい役者になると思う若手と出会っても、役に合わない場合は落とすこともあって、もったいないと思っていた。若い人とまとまった時間をとって、長期的にやる形を作りたいと思った」と説明した。

 故蜷川幸雄さんも、芸術監督を務めたさいたま芸術劇場で高齢者を対象にしたゴールドシアターに続き、若手育成のためのネクスト・シアターを08年に立ち上げた。その時、蜷川さんは73歳だった。野田の場合も芸術監督を務める東京芸術劇場が拠点となる。「今年12月ぐらいに募集を始めて、20~30人をとって、ゆくゆくは芝居を打ちたい。年齢不問で、気持ちが若い人なら歓迎です」。

 新国立劇場には俳優育成の研修所もあり、演劇科を持つ大学も多いが、野田は「日本の大学の演劇科は全員がプロ志向なわけじゃない。日本の芝居が活況を呈している風に見えるけれど、もう少し先にいかないと、というフラストレーションがあった。1つ、大きな才能が出ると、変わっててくると思うんだけどね」。

 英国に留学し、ロンドン、パリ、ニューヨークなど海外公演も経験している野田は、海外と日本の演劇事情を比べて、「海外にかわないと思うのは、何を作るにしても時間をかけていて、長さがある」という。オーディションには毎回1000人以上の応募があり、書類審査を経て、約300人を面接している。「今回もそれぐらい応募があるでしょう。俳優だけでなく、演出家枠も作るのもいいかな。どういうものにしていくかはこれから決めていく。本格始動は来年で、とりあえず、『やるよ』と手を挙げてみた」。

 蜷川さんのネクスト・シアターは良質な舞台を上演し、海外公演も行っている。野田も「面白そうな可能性を持っている人と出会いたい。若い頃に劇団(夢の遊睡社)をやっていた時は、すぐにやめさせたこともあるけれど、今度はじっくりと育てたい」。同世代である野田が、どういう俳優を育てるのか。老後の楽しみがまた1つ増えた。【林尚之】