人生に、平穏も平凡もない。長年連れ添った熟年夫婦の離婚問題と、分裂危機に揺れる家族の絆を、山田洋次監督がコミカルに表現した。

 定年後もゴルフに酒にと悠々自適に過ごす夫(橋爪功)。酔ったついでに妻(吉行和子)への誕生日プレゼントを尋ねると、離婚届への捺印を求められる。夫が脱ぎ散らかす靴下や、妻の愛情をないがしろにする言動の数々。日常に隠れた妻の「うっぷんゲージ」のたまり方が、手に取るように分かる。が、少し分かりやすすぎる。仕掛けの「劇薬」に頭が慣れすぎたのか、と軽く自己反省してしまう。

 最後の「男はつらいよ」から21年。山田監督が丹念に紡いできた「ニッポンのよき家庭」のダークサイドを、しかも橋爪、吉行、西村雅彦ら「東京家族」の主要キャスト8人をそのまま起用して描いたことが、最大の肝だ。個人的には「東京家族」とリンクしてしまい、劇中で何度も違和感、既視感に襲われた。

 最終的には、山田ワールドの世界観から出ず、ほっこりする結末。それにしても、蒼井優は幸せそうな笑顔が本当にうまい。【森本隆】

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