歌舞伎俳優尾上菊之助(38)が12日、同日亡くなった蜷川幸雄さんとの思い出を振り返った。菊之助にとって、歌舞伎以外の舞台に初めて挑んだのが、蜷川さん演出による00年の舞台「グリークス」だった。

 「10代のころ、蜷川さんの稽古場や若手の蜷川スタジオの舞台を拝見して、蜷川さんのお芝居に出たい、出していただきたいと思っていました。23歳の時『グリークス』でかない、現代劇への出演が初めてだった私に、ゼロから心情を作り上げていくお芝居を一から教えてくださったのが、蜷川さんでした。古典の『型』に頼ることができない世界に身が引き締まったのです」

 5年後、シェークスピアの「十二夜」の歌舞伎版、「NINAGAWA 十二夜」を上演、その後ロンドン公演も行った。

 「蜷川さんは絶対に歌舞伎の演出はしないとおっしゃっていたのですが、シェークスピアの『十二夜』の演出をお願いできることになり、『歌舞伎に留学して、菊之助君と心中するよ』と言ってくださったのが一番心に残っています。単身歌舞伎の世界にお越しになって、一から歌舞伎のことを勉強するような身の置き方をされていました。初心を忘れることなく新しいものを作っていこうと演劇の大先輩がされている。新しい風を巻き起こそうというエネルギーを、私に、そして『NINAGAWA 十二夜』に吹き込んでくださいました。ロンドンでの海外公演も経験させていただき、私にとっては20代で体験した大切な作品になりました」

 菊之助は「蜷川さんには感謝してもしきれない想いがあります。時に厳しく、温かく、ともに過ごした稽古場での時間は、短かったですが、私にとっての大恩人です」と悼んだ。