将棋界最年少プロの藤井聡太四段(15)が、トップ棋士を連破した。15日、都内の将棋会館で行われた第11回朝日杯オープン戦で、順位戦A級棋士の屋敷伸之九段(45)と同B級1組の松尾歩八段(37)に連勝。2次予選を突破し、16人で争う本戦トーナメント入りを果たした。両クラスの棋士を公式戦で下したのは初めて。前人未到の29連勝から始まった今年の快進撃に、C級2組からの下克上が加わった。通算成績は54勝9敗。

 強敵2人を撃破した藤井の顔色は、青ざめているように見えた。これまで立ちはだかっていた壁を乗り越えたことを実感している様子だった。

 午前に対局した屋敷九段は、将棋界のトップリーグとも言うべきA級順位戦の11人の1人。1990年(平2)8月に18歳6カ月の史上最年少、1年10カ月のプロ入り後最速で棋聖のタイトルを獲得した。そんな記録の持ち主に、先に仕掛けられた。藤井は落ち着いて対応し、攻略した。「A級という最高峰に身を置いている先生に勝てて、自信になりました」。屋敷に「藤井さんにうまく指された」と吐露させた。

 デビュー後、非公式戦では現在の羽生善治2冠、佐藤康光九段、深浦康市九段とA級在籍棋士に勝っている。公式戦では、壁にぶち当たった。豊島将之八段、稲葉陽八段に連敗。この日はA級棋士初撃破という新たな歴史を刻んだ後、午後の松尾戦に臨んだ。

 B1にいる松尾とは、お互いに次の手を探り合う前例のない展開となった。今年の竜王戦挑戦者決定戦で羽生に敗れた愛知県出身の先輩と接戦に持ち込み、寄せ切った。「難しかった。強敵ばかりの2次予選を勝ち抜けて、うれしい」。松尾に「指してみて、落ち着いて急所にビシビシ来られた」と評された。B1在籍棋士とは1度対戦がある。菅井竜也王位にやはり完敗した。A、B1という実力派棋士の壁を1日で突破した。

 今月24日でデビュー戦から1年。「プロになる前になかった経験をさせてもらって、成長の1年だった。トップの先生と何局か対戦して、力の差を感じる部分もあった。来年少しでも追いつけるように頑張りたい」。来春には高校に進む。「将棋だけではなく、それ以外にも意欲的に取り組んで、視野を広げたい」。新たな高みへの挑戦に、終わりはない。【赤塚辰浩】

 ◆将棋の公式戦と非公式戦 8大タイトル戦(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖・叡王)と、NHK杯や朝日杯、新人王戦など、日本将棋連盟の公式記録となる対戦成績や勝敗、勝率、連勝の対象となっているのが公式戦。インターネットテレビの番組企画や、地方自治体、百貨店などで企画された「将棋まつり」などで行われる対局は、非公式戦。

 ◆朝日杯オープン戦 全棋士、アマチュア10人、女流棋士3人が参加。1次予選から本戦(枠16人)まで全てトーナメントで行う。優勝賞金750万円。持ち時間各40分。本戦には、2次予選を勝ち抜いた8人と、今回の組み合わせが決定した時点でタイトルを保持していた渡辺明棋王、佐藤天彦名人、羽生善治2冠、久保利明王将、さらに前回優勝の八代弥六段、準優勝の村山慈明七段、4強の広瀬章人八段、澤田真吾六段のシード8人が出場する。

 ◆順位戦 1937年(昭12)創設。名人を頂点に、A級~C級2組の5段階。1年1期で各組のリーグ戦10回戦を行い、毎年度、昇級と降級が行われる。A級優勝は、名人戦挑戦者となる。来年3月、佐藤天彦名人と対局するA級優勝者が決まる。新人はC2でデビュー。プロの誰もが目指す名人になるには、最短で5年かかる。

 ◆藤井四段の今後の日程 23日に叡王戦本戦1回戦で深浦康市九段と対局(東京・将棋会館)。28日の王座戦予選(大阪・関西将棋会館)では、豊川孝弘七段対村田顕弘六段の勝者と対局する。