今シーズンから、J3藤枝MYFCのリーグ戦全戦が4000キロ以上離れたカンボジアの地で、生中継されている。カンボジア人初のJリーガーとなるFWチャン・ワタナカ(23)が期限付き移籍で新加入したためだ。同国の代表選手として活躍しており、スーパースターとして故郷での知名度は抜群。クラブのアジア戦略にとっても、重要な契機を迎えている。

 今年に入り、カンボジアでは“フジエダ”という地名が急速に広まっている。カンボジアの全国放送局バイヨンテレビが、Jリーグから独占放送権を獲得。J3開幕戦のアウェー鹿児島ユナイテッドFC戦(3月11日・0-5)から、生中継されているためだ。ワタナカの獲得を含め、現地に複数回足を運んでいる小山淳社長(40)は「カンボジアで、フジエダというチーム名、地名が有名になりつつあると実感する」と言う。

 ワタナカは、まだリーグ戦のメンバー入りがゼロ。しかし「カンボジアの至宝」「カンボジアのメッシ」と呼ばれている国民的スターだ。小山社長は「本人が試合に出て、活躍してから放送が始まるのでは時間がかかってしまう。年間を通して放送してくれるのは、ありがたいと思う」と話した。クラブが2月に作成したクメール語(カンボジアの公用語)の公式フェイスブックの「いいね!」件数は、現在では4万7000超えと人気の高さをうかがわせる。

 今後は、ワタナカの活躍がカギになる。本人は「練習から全然違って、まだ慣れていない」と環境の違いに悪戦苦闘中。ただ天皇杯県予選の準決勝に途中出場するなど、1歩ずつ前進しており、「まだまだ体力が足りないし、守備もこれから。試合に出るために、頑張ります」と前向きに取り組んでいる。

 ワタナカの試合出場が増えた場合を想定し、クラブはカンボジアのサポーターを藤枝に呼び込むツアーやイベントを企画する案もあるという。小山社長は「カンボジア国民の方が、藤枝に足を運んでくれるようになれば」と話す。ワタナカが日本、そして藤枝とカンボジアの懸け橋になる。【保坂恭子】

 ◆チャン・ワタナカ 1994年1月23日、カンボジア生まれ。11年スヴァイリエンFCに入団。12年からボンケット・アンコールに所属し、90試合116得点。代表歴はU-19、U-23、13年からはA代表で28試合10得点。15年のW杯アジア2次予選で同国代表として来日も、けがで出場はなし。14、15、16年にカンボジアリーグMVP。15、16年に同得点王。175センチ、60キロ。