国内の温泉旅館のバリアフリールームに宿泊したことがあります。介護施設にあるような巨大な浴室に驚きました。しかも介助用のリフト付き。車いすユーザーの私でも使ったことはありません。夫婦で泊まったのですが、私のベッドは立派な介助ベッドなのに、夫は付き添い用の簡易ベッド。まるで病室のようで、がっかりしました。

 「バリアフリー」というと、日本人は特別に考えて設備をあれもこれも詰め込みがちですが、部屋はちょっと工夫するだけでずいぶん機能的になります。例えば浴室のドアを外側に開くようにすれば中が広く使えますし、ベッドを可動式にしたり、机や冷蔵庫をコンパクトにすれば、車いすの移動スペースも確保できて、それだけでバリアフリーの部屋になるのです。

 日本の宿泊施設で一番の課題はユニットバスです。コンパクトなはめ込み式で全国に広がりました。でも下に配管があるので部屋の床とは段差ができます。高いところで40センチ以上もあり、障がい者や高齢者にはしんどい。一方、体の大きな外国人には狭すぎるし、日本人の体形も数十年前とは変わっています。20年大会をきっかけに変えなければと感じています。

 改修にはコストが発生します。でも10年後、3人に1人が65歳以上の超高齢化社会を迎え、海外からの訪日客も倍増が予想されています。コストを未来への投資と考えて、部屋のつくりに工夫をこらしたり、利便性の高い商品を開発してみてはどうでしょう。それをHPでアピールする。段差や通路の幅、浴室の広さなどの詳細情報や写真も公開すれば、ユーザーの選択肢が広がり、ホテル側も新たな顧客を取り込むビジネスチャンスになります。

 そのためには障がい者をもっと活用してほしいと思っています。経験上、いろんな情報を持っています。障がい者と接する機会が増えることで、新たな気づきが生まれてきます。20年大会へ向けてパラアスリートの露出が増えたことで、新たに見えてくることもたくさんあるはずです。感度を上げましょう。今こそチャンスだと思います。(パラリンピック・アルペンスキー金メダリスト、日本パラリンピアンズ協会副会長)

 ◆大日方邦子(おびなた・くにこ)1972年(昭47)4月16日、東京生まれ。3歳の時に交通事故で右足切断。左足にも障害が残る。高2からチェアスキーを始め、パラリンピックは94年リレハンメル大会から5大会連続出場。98年長野大会で冬季大会日本人初の金メダルを獲得。メダル数通算10(金2、銀3、銅5)は冬季大会日本人最多。10年バンクーバー大会後に引退。