1月にイタリアで開催されたパラアルペン世界選手権で、オランダの若い選手たちの台頭が目立ちました。17歳のユルン・カンプシャー選手は3種目を制覇し、18歳のニールス・デ・ランゲン選手も回転で銅メダルを獲得。銀メダル1つに終わった昨季W杯総合優勝の森井大輝選手から「若い選手に刺激を受けました」という連絡がありました。

 私は昨年11月、政府主導でインクルーシブなスポーツに取り組むオランダを視察しました。アムステルダム郊外にあるナショナルトレーニングセンター(NTC)では、健常者も障害のあるアスリートも一緒に生活していました。ユルン選手もここから学校に通っています。

 国土が小さく、人口1600万人ほどのオランダは強化予算も限られるため、「選択と集中」という方針で、実績や環境などを分析した上で強化競技を絞り込みます。その1つがパラアルペンスキーです。別の場所に夏でもトレーニングできる室内スキー場があり、そこで毎年、体験会を開いて選手を発掘しています。

 オランダではこの発掘プログラムが徹底しています。参加者に3競技を選ばせ、さらに障害の特性に応じて1競技を推薦します。その後、何度もトライアウトを重ねて、競技適性を見極めながら本人や親と面接を繰り返します。そしてお互い合意の上で、NTCに入って本格的な強化をスタートさせるのです。

 オランダの選手強化で特徴的なのは勉強も徹底的にさせるところです。競技成績がよくても授業への出席日数が足りなければ進級できません。選手がメダルを取った後、競技をドロップアウトした後も、彼ら彼女らが社会で力を発揮できるようにという筋の通った理念があるのです。

 今年、日本でも20年特別強化対策プロジェクトが始まりました。日本パラリンピック委員会(JPC)と競技団体が協力して選手発掘、強化を全面的にサポートするプロジェクトです。オランダがすべていいというわけではありませんが、日本にも20年大会の後も見据えた理念が重要だと感じました。(日本パラリンピアンズ協会副会長)

 ◆大日方邦子(おびなた・くにこ)1972年(昭47)4月16日、東京生まれ。3歳の時に交通事故で右足切断。左足にも障害が残る。高2からチェアスキーを始め、パラリンピックは94年リレハンメル大会から5大会連続出場。98年長野大会で冬季大会日本人初の金メダルを獲得。メダル数通算10(金2、銀3、銅5)は冬季大会日本人最多。10年バンクーバー大会後に引退。