リオデジャネイロ五輪アジア最終予選を取材していて、文化の違いを痛感し、タイの皆さんに申し訳ない気持ちになりました。

 16日付の紙面で、U-23(23歳以下)日本代表MFの豊川雄太選手(21=岡山)について次のような記事を掲載しました。


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 本家本元のジーコ・スピリットを示す。今日16日に戦うタイのキアティスク監督は、現役時代に同国代表で131試合70得点。出場数、ゴール数ともに同国歴代最多を誇り「タイのジーコ」の異名を取る。これを伝え聞くと、13年から3シーズン鹿島に所属した男として「ジーコに失礼でしょ」と即答。「本当の魂を見せますよ」と燃えた。タイは14年12月の遠征で対戦し、代表初ゴールを決めた相手。「とにかく点を取る」と意気込んだ。

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 五輪最終予選を兼ねるU-23アジア選手権の、1次リーグ第2戦タイ戦に向けた記事です。その中で「ジーコに失礼でしょ」と、豊川選手が発言したことに、キアティスク監督を国民的英雄とあがめるタイ国内で、批判の声が上がっていると聞きました。

 記者は「『タイのジーコ』の異名を取る」と書きましたが、タイにはニックネーム文化があり、異名ではなく「正統な名前」の1つだと、関係者に指摘されて初めて知りました。

 タイの文化に対する理解が足りなかった記者が「ジーコを名乗られては、本家も黙っているわけにはいきませんね?」と質問し、豊川選手が答えた。これが記事掲載の経緯です。

 ご存じの通り、鹿島にとってジーコ氏は特別な存在です。「献身、誠実、尊重」のジーコ・スピリットが根付くクラブに豊川選手は昨季まで所属。鹿島の担当記者の私としては「ジーコといえば鹿島」という思いがあり、豊川選手に質問しました。もちろん豊川選手に悪気はなく、記者の質問に対し、ジーコ氏やクラブに対する愛を強調しただけです。

 見識に欠ける質問をした私の記事のせいで、タイで批判の声が上がっているようだと豊川選手に伝えると「もし自分の発言で気を悪くされた方がいたら申し訳ありません」とコメントしていました。私も、記事を読んで気を悪くした方々に改めておわびします。

 特に国際大会では、しばしば対戦相手を敵と見て報道してしまう場合がありますが、敬意を払うことを忘れてはいけないと、あらためて思いました。ジーコ氏が言う「誠実」や「尊重」の姿勢を心掛けて取材を続けたいと思います。【木下淳】


 ◆木下淳(きのした・じゅん)1980年(昭55)9月7日、長野県飯田市生まれ。早大4年時にアメフットの甲子園ボウル出場。04年入社。文化社会部、東北総局、整理部を経てスポーツ部。鹿島、U-23代表担当。タイ訪問はバンコク2回、プーケット島2回。