9月から始まる18年W杯ロシア大会アジア最終予選前の最後の強化試合。5年ぶりに復活したキリン杯に、日本サッカー協会はブルガリア、デンマーク、ボスニア・ヘルツェゴビナの欧州3国をホームに呼んだ。初戦のブルガリア戦は、欧州チーム相手に7-2と、5点差の圧勝。流れるようなワンタッチパスで、長年日本を苦しめてきた「決定力不足」は、影を潜めた。7日には、デンマークを下したボスニア・ヘルツェゴビナと杯を競う。

 快勝のスタンドで、爽快な気分になれない。ハリルイズムが浸透し、チーム力が上がったのか、それとも相手の力不足、やる気なしで勝っただけなのか。もしくは両方がうまく相まって、あの結果になったのか。試合前にDF長友の熱愛が公になり、試合後の会場、ロッカールームは「アモーレ(愛)」一色。日本サッカー協会の意見を聞きたくても、田嶋幸三会長を含め、協会幹部のだれもミックスゾーンを通らない。

 今回、来日してくれた3国は、いずれも欧州選手権予選で敗退したチーム。当面の目標を失ったチームとして、さまざまな思惑があるはず。新戦術や若手メンバーを試したい。普段対戦する機会の少ないアジアチーム相手に、新たな経験を積みたい。国際サッカー連盟(FIFA)により事前に組まれたマッチデーをこなしつつ、さらにジャパンマネー(対戦料)が獲得できる-。少なくともブルガリア戦をみる限り、相手はそれほど真剣な気持ちでは来日してないようだ。失点しても悔しがらないし、審判に食い下がる選手もほとんどいない。

 日本協会は選挙で、国際通の田嶋氏が会長に選出された。新会長は、自ら将来構想委員会の委員長に就任し、さまざまな改革のトップに立った。FIFAの理事でもあり世界的に、ある程度の影響力が行使できる立場として、当然マッチメークにも力を発揮することができるはず。就任後初の強化試合だが、その期待を裏切られた感が強い。スポンサーが絡んでいることや、対戦国とも事前に話が進んでいたとしても、覆すチャンスはあったはずだ。

 お隣の韓国。同じタイミングで、欧州遠征を決断し、欧州選手権開幕直前に出場国のスペイン、チェコと強化試合を組んだ。初戦のスペイン戦は1-6の大敗。くしくも日本がブルガリアを下した5点差で、韓国は屈辱を味わった。知人の韓国メディアは言う。「守備網崩壊ですよ」。すかさず僕は返した。「親善試合では珍しく、真剣勝負の環境をつくった韓国協会は立派だよ」。

 W杯最終予選では対戦しないが、ライバル国の5点差勝利と敗北。今回の強化試合の効果が表れるのは、9月からの最終予選、さらには、2年後のW杯本大会だ。【盧載鎭】

 ◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、韓国・ソウル生まれ。88年に来日し96年入社。約20年間、サッカー担当。趣味はフェンシング観戦。メンタルトレーニングに興味があり、最近は自分の子供たちに実験中だが、アメとムチの加減がいまだ分からない。2児のパパ。