J2札幌の野々村芳和社長(44)は、北海道ローカルの民放ラジオ局で、毎週金曜午前10時15分ごろからレギュラー出演している。

 某局の情報番組に「野々村芳和のコンサドーレ情報」というコーナーがあり、担当記者も可能な限り耳を傾けている。

 基本は、直前の試合の振り返りがメインで、日々、チーム取材をしている立場としては直接、関わるような内容は少ない。それでも聞かなければならない理由がある。ときたま、社長が“勇み足”をするからだ。

 クラブからリリース日まで公表しないよう口止めされている、ある選手の負傷具合について、聴取者からのメールが届く。「○○選手のケガは長引きそうなんですかぁ」とアナウンサーに訪ねられる。社長は「うーん、まあ、靱帯(じんたい)をやってしまったので、結構かかっちゃうでしょうねぇ」とポロリする。

 場所を非公開で練習していた9月9日、練習時間と放送時間が重なった。アナウンサーから「社長、今はどこからですか」と訪ねられると「今、厚別(公園競技場)で練習を見ていますね」とまたポロリした。

 ただ、ファンからすれば、思ったことを親切に、はっきり言葉にしてくれるので、分かりやすい。弊紙で四方田監督続投の報道を出した直後、2日の放送で、クラブの続投方針をはっきり示していた。「これだけのポジション(首位)にいるわけだし、このままの流れでやっていこうねと、監督、スタッフとは話しながらやっていますよ。このグループで引き続きやっていこうというのは変わらないですね」。

 責任ある立場にいる人の場合、発言の重みや影響を考慮して、ぼかしたコメントにとどめる人もいるのだが、そうすると、聞いた人のとらえ方次第で、間違ったニュアンスで伝わることもある。その点、同社長は正しく報じられた記事については、必ず認める。そして、より詳しい話を聴取者に伝えようと、ラジオの話はふくらんでいく。

 逆に誤報と思われるものに関しての質問がラジオで出ると「これはないですね」と一刀両断する。だから、報道陣も、しっかり取材で裏付けした情報以外は、紙面に出さないよう心がけている。毎度、正しい情報だけを記事にしようと留意してはいるが、輪を掛けて、オープンで率直な社長の態度は、節度ある情報発信につながっている。

 01年限りで現役引退後、サッカースクール経営の傍ら、テレビ解説やスカパーでのレギュラー出演もこなしてきた同社長。だからこそ、熱心なクラブ経営と並行して、常に頭の隅に、メディアの力や生かし方を気にしている節がある。

 そんな社長が、日本ハムのパ・リーグ優勝争いで盛り上がる北海道内の報道に「ここまで来てもコンサドーレの記事は、なかなか大きくならないね」とつぶやいた。寂しそうだったので「9月はプロ野球の大詰めですから、ちょっと我慢です。10、11月に一気に来ますから」と返した。

 だが、日本ハムが日本シリーズに進出すると、10月22日~30日まで開催される。札幌は10月22日にホーム東京V戦、30日アウェー熊本戦。今の勢いを持続すると最短で、10月中の昇格決定もありうる。早く決まるのはうれしいことなのだが、J2の立場では、さすがにプロ野球の日本シリーズ優勝争いには勝てないのが現状だ。

 社長就任4年目、J2降格直後の13年に厳しい財政状況の中、重責を負うことになったことは知っている。それだけに、歓喜の瞬間は最大限、紙面で報じてあげたい気持ちは強く、複雑な心境だ。

 願うは11月決着。11月3日ホーム讃岐戦、6日アウェー徳島戦、12日アウェー千葉戦、そして20日の最終節は、ホーム金沢戦で締める。前回、昇格した11年は最終節決戦だった。勝たなければならない崖っぷちの中で、既にリーグ優勝を決めていた東京に2-0リードも、1点を返され、なおも攻め込まれる中、必死に耐えて3位に滑り込んだ。あのドキドキ感はこりごりだが、早すぎると紙面で社長の期待に応えられないジレンマがある。

 北海道民の立場としては日本ハムの歓喜も味わいたいし、札幌のJ1昇格もしっかり紙面で扱いたい。ということで勝負の神様、わがままですが是非、日本シリーズ後の、11月上旬ぐらいの昇格決定で、お願いします。


 ◆永野高輔(ながの・たかすけ)1973年(昭48)7月24日、茨城県水戸市生まれ。両親が指導者だった影響で小5からフェンシングを始め競技歴15年。早大フェンシング部で一度、現役引退も、00年に再起してサラリーマン3年目の27歳で富山国体出場。09年から札幌担当。