Jリーグは誰のためにあるのか-。問い掛けたのは、10年ぶりのリーグ優勝に迫っている浦和のミハイロ・ペトロビッチ監督(59)だった。

 鹿島とのチャンピオンシップ(CS)決勝第1戦を翌日に控えた28日のこと。今季限りでなくなるCSについて素朴な疑問を呈した。「我々は、恵まれない状況にあるかもしれない」。CSは15年に導入され、昨季の浦和は年間勝ち点2位で準決勝に臨み、延長戦でG大阪に敗れた。変更された今季のルールであれば、90分で引き分け以上なら決勝進出だった。

 今季は年間勝ち点1位でシードされた決勝で待つ形となり、2試合とも同スコアでの引き分け以上なら、優勝できる立場だ。だが指揮官は「2試合続けて同じスコアになる可能性は5%程度だろう」と淡々としていた。「つまり、アドバンテージは5%くらい。これを意識するなら、2つ勝つ意識でいることが望ましい」。シーズンを通し、歴代最多タイとなる勝ち点74を積み上げた。15点差をつけた鹿島(年間勝ち点3位)に対し、現行制度で得られるアドバンテージはわずか5%-。リーグ戦34試合の労はほぼ反映されていないと、見定めたわけだ。

 ただ指揮官の口ぶりは、1ステージ制なら優勝なのにここ2シーズンは不公平である、というような“不満”とは違う。怒り口調でもない。「私の立場でこのようなことを言うのは心苦しい」としながら、続けた。「決定に従うのがクラブ。だが、やる側であるクラブの意見を受け入れてもらえないのは残念だ」。

 年間143試合を数えるプロ野球など、プレーオフ制度が浸透しているスポーツは多い。勝負のヤマ場を増やし、盛り上げようとする運営側の意図は理解できる。今回のCSは各クラブの社長が集まる実行委員会で議論を重ねての決定であり、現場の意思が無視されたとは言えない。

 「日本サッカーを良くしていきたいと思っている」というペトロビッチ監督の思いは運営側も同じだろう。ただ、選手にプレーの場を用意し、お客さんに試合という商品を提供する側と、ピッチに立つ側の価値観は必ずしも同じとは限らない。この2シーズンでサッカーになじまなかったと片付けるのは簡単だが、結果で人生が決まるプロの選手たちが浮かばれない。浦和は勝負弱いとやゆされ続けたが、結果的にルールが逆風になったという見方が一部であっても仕方ない。

 「よく思われないのは分かっている。誰かが言わないといけない」と話しながら指揮官はほほ笑んでいた。来年からは1シーズン制。今年とで、年間勝ち点1位の価値はガラリと変わる。【岡崎悠利】


 ◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり)1991年(平3)4月31日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年4月入社。担当は今年11月までラグビー、現在はサッカーで浦和、柏、年代別の日本代表など。現役時代は陸上部で走り幅跳びが専門も、ゴールマウスの横幅を跳び越える記録(約7メートル32センチ)は生涯かなわず、鳴かず飛ばずで引退。