私は約20年、サッカーを担当している。その間、関東のほとんどのクラブを担当した。その中で、個人的に気に入ったクラブは鹿島アントラーズ。クラブの根底には、地方クラブ独特の温かみがあり、選手やフロントそれぞれには高いプロ意識がある。そのギャップが好きで、クラブ全体の鹿嶋という街への愛着も格別なものがある。

 今年の暮れ、鹿島はJリーグを制し、クラブW杯の出場権を得た。勢いに乗り、決勝まで進んだ。相手は世界のRマドリード。試合前夜、大きな心配に襲われた。「0-10とかで負けたらどうしよう。Jリーグが世界中から笑いものにされる」。2年前のW杯ブラジル大会では、アジアから日本、韓国、オーストラリア、イランがアジア代表で出場し、0勝3分け9敗と惨敗している。その時のいやな記憶が思い浮かんだ。

 もう1つの心配があった。「鹿島がレアルに勝っちゃったらどうしよう」。仮に勝ったとしても、世界中の誰も鹿島を世界一クラブとは認めないだろう。FIFA(国際サッカー連盟)主催の権威ある大会自体が怪しまれるかもしれない。鹿島好きとしては勝ってほしい気持ちはあるが、勝ってほしくないと願う自分がいた。

 結果、2-4。延長戦に持ち込み、審判の怪しい判定やロナルドのハットトリックなどで大会は盛り上がり、注目度も高まった。鹿島の名を世界に広めることもできた。必死に戦った選手が聞いたら怒ると思うが、個人的にはベストの内容で理想的な結果だと思っている。

 今年でいったん、クラブW杯の日本開催は終わる。鹿島が出場資格を得た開催国枠も来年以降は得られない。今後、絶えずJリーグ、さらに鹿島を世界中にアピールするには、まずACLで勝つしかない。アジアを勝ち抜き、何度もFIFA主催の公式戦で世界の強豪クラブを脅かさないと、決勝戦でイーブンな笛は期待できない。

 鹿島の躍進が一過性で終わらないこと、同時に他のクラブも刺激を受けて切磋琢磨(せっさたくま)してくれることを祈る。【盧載鎭】


 ◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、韓国・ソウル生まれ。88年10月に来日、96年入社。東京・新宿在住だが、最近は地方暮らしにあこがれている。年末年始、酒量が増えて心配な2児のパパ。