日本代表「海外組」の定義が、変わるかもしれない?

 10日のキリンチャレンジ杯で日本と戦ったハイチ代表に、日の丸を付けてプレーする可能性がある選手がいた。MFザカリー・エリボー(21)。日本人の母を持ち、父はハイチ出身。自身は大阪・吹田市で生まれ、3歳から米国ボストンで育ち、現在も米MLSニューイングランド・レボリューションとプロ契約。日本、ハイチ、米国の国籍を持ち、ハイチと米国では世代別代表に選ばれてきたボランチの好素材だ。

 試合に備えた来日直後の8日の練習後「僕は若い時は米国の代表になりたかった。でもお母さんは日本代表になってほしいと思って、ずっと応援してくれている。お父さんはやっぱりハイチ。今はまだ決められない。もっとサッカーで成長してから決めたい。考えていることはいつも良いプレーをすることだけ。Jリーグでもプレーしたいし、ヨーロッパにも行きたい」と思いを明かした。

 Jリーグで活躍して海外クラブに加入し、代表に選ばれている選手を「海外組」と呼んできた。今後は他国の世代別代表などに選ばれても、A代表では日本代表を選択する選手がいてもおかしくはない。今までもラモス瑠偉や呂比須ワグナーなど「国籍変更組」選手はいたが、エリボーのような選手が他にもいるかもしれない。欧州の強豪ドイツやフランスも他国からの「転籍組」は数多い。来月の欧州遠征で対戦するベルギーもそう。日本人的な考え方をすると「日本で生まれ育ってきた選手にW杯に出てほしい」などの意見も出てくるだろう。だが、日本を含む多重国籍を持つ若手選手が日本代表も選択肢に入れるというのは、世界に日本の実力が認められつつある証拠でもある。

 以前、世界のストライカー釜本邦茂氏も「野球とかバスケットとか、いろいろな球技スポーツでも、純日本人でなくて、欧米やアフリカの血が入った選手の活躍が目立ってきている。それも歓迎できる。違った形で戦力アップができれば、他の選手も負けじと頑張る。相乗効果が生まれる。世界トップクラスの国はどこもそうなりつつある」と話していたことがある。私もその意見に共感した。陸上界でもケンブリッジ飛鳥やサニブラウン・ハキームらに負けじと、桐生祥秀が日本人初の9秒台達成。サッカーでもそういう状況に、複数の国籍から日本を選択する選手が増えれば、競争意識もさらに高まり、レベルアップは間違いないと思っている。

 エリボーは今回はハイチ代表として国際Aマッチ初出場を果たしたが、FIFA(国際サッカー連盟)主催の公式戦ではないため、今後の国籍選択に支障がないことを確認済みの代表入りだった。過去にはハイチ代表入りを断ってきたほど、選択の余地を残すことにこだわってきた。「家でのルールで、お母さんとの会話はすべて日本語なんです。大阪弁なので僕も少しそうなっているかも」と笑ったが、日本で競技生活を送ることも見据えた教育が施されている。

 高校を中退してブラジルに渡ってプロになった三浦知良(50=横浜FC)も、ある意味「逆輸入」選手のような形。自身はW杯本大会直前に代表から落選し、W杯のピッチには立てていないが、日本にW杯の存在を知らしめた最大の功労者であることに違いない。そのカズが期待を寄せ、ブラジルの世代別代表に選出されてきた「ブラジルのKAZU」こと日系人DFクリスチャン・ケンジ(17)などの成長も楽しみだ。現在はセレソンを目指しているが、日本代表に目を向けてくれれば左サイドバックとして楽しみだ。

 2020年東京五輪、2022年W杯カタール大会には、カタカナ表記の日本代表選手が誕生するかもしれない。そんな選手が出てくてくれることも、日本代表選手の切磋琢磨(せっさたくま)の1つにつながると思う。【鎌田直秀】


 ◆鎌田直秀(かまだ・なおひで)1975年(昭50)7月8日、水戸市出身。土浦日大-日大時代には軟式野球部所属。98年入社。販売局、編集局整理部を経て、サッカー担当に。相撲担当や、五輪競技担当も経験し、16年11月にサッカー担当復帰。現在はJ1鹿島、J2横浜FCなどを担当。