<サッカーai:ルーテル学院3-1帝京>◇20日◇1回戦◇国立

 前回大会は初戦で広島皆実に敗れ、その悔しさを胸にリベンジを誓った帝京(東京B)。開始32分にルーテル学院(熊本)FW小牧に先制されながらも、後半16分、途中出場したチームの精神的支柱であるキャプテンのMF稲垣祥のヘッドで同点に追いつきました。しかし、これからという矢先、ディフェンスラインとGKの連係が乱れて立て続けに失点し、勢いに乗れないまま、1-3で終了。またも初戦敗退の苦杯を味わうことになってしまいました。試合後、ミスを悔やみ泣き崩れるGK内田裕久を抱きかかえ、気丈に振舞っていた稲垣。しかし、彼もまた涙をこらえきることができませんでした。

 前半、ベンチから試合を見ていた稲垣は「自分たちのサッカーができていない」と、0-1でリードされて折り返したハーフタイム。「このままじゃ終われないぞ」とチームメートに激を飛ばしました。この日は、都大会決勝3週間前に負った右足中指の骨折の影響で、ベンチからのスタートとなったものの、後半から出場し「1点とれば絶対にいけるから」と何度もGKと競り合い、自らの姿をもってチームメートを鼓舞し続けました。

 その姿は確かにチームメートにも伝わっていましたが「キャプテンとしてチームを引っ張り切ることができなかった。大会前に『目標は優勝すること』だと言っていたけれど、それが言葉だけになってしまって……。自分自身が本当に情けないです」と唇をかみしめます。

 試合終了の笛が鳴った瞬間、これまでの思い出が走馬灯のように駆けめぐり、目頭が熱くなったという稲垣。

 「この悔しさは何があっても絶対に忘れない。どんな形であっても、この経験を次のステップにいかさなければ!」

 新しいステージでのリベンジを心に誓いました。

 選手権までたどり着くまでに彼を支えたもの、原点となったのは、3年前、当時所属していた東京U-15むさしからユースに昇格することができなかったという苦い経験。そして、レベルが高いところでプレーしたいと、高校サッカーの強豪・帝京の門をたたいたこと。最初でこそクラブチームと高校の違いに戸惑いを感じながらも、ヒョロヒョロと細くて小さな身体は、3年間で見違えるようにたくましく変化。09年はキャプテンを務め、精神面でも大きな成長を遂げました。「ここに来たから強くなれたし、自分の弱さを克服できた」。帝京での充実した時間は、かけがえのない宝物となりました。この日、心に深く刻みこまれた悔しさは、なにものにも変えがたい財産となったはずです。3年間で培った「帝京魂」を胸に、大学でもチャレンジの姿勢を貫いてくれるに違いありません。(サッカーai編集部・石井宏美)