日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督(57)が、故郷イタリアのチェゼナティコで日刊スポーツのインタビューに応じ、今後のチームづくりについて語った。日本が特長とする「技術とスピード」を生かし、イタリアサッカーとの融合を口にするなど、17日の再来日を前にザック監督が高ぶる胸中を明かした。

 ザッケローニ監督は、長男ルーカ氏が経営するチェゼナティコの海辺のカフェに、紫色のポロシャツに黒の半ズボンという軽装で現れた。日本では多くを語らなかった新指揮官だが、故郷の海を前に終始リラックスムード。新たな挑戦について静かに話し始めた。

 -どのようなチームづくりを目指していますか

 ザック

 このチームを向上させていきたい。日本のサッカーは、テクニックとスピードという2つの特長を持っている。それを守っていきたい。監督としてJリーグを見て、選手を選んで行きたい。短期間で変えることは無理だが、できることをやっていく。長い道のりだが、そこで成長させていかなればならない。

 -カターニア森本のように、試合に出られないような状態でも招集しますか

 ザック

 問題はない。チームでコンディションがよければ、試合に出ていなくても招集する。カターニアには関係者を送り込むし、ロモナコGMとはウディネーゼの時に一緒に仕事をしたのでよく知っているので、彼からも情報を聞きたい。イタリアでプレーしていることは私としては情報を集めやすい。選手は厳しいリーグにいたほうが成長しやすい。だからJリーグ自体が成長することも重要なんだ。幸いJリーグの監督は優秀だ。ただ日本はフィジカルなチームではない。もちろん弱点のないチームなんてないのだが。日本代表は持っている武器を使わなければならない。それが技術とスピードなんだ。

 -どう仕事を進めますか

 ザック

 とりあえず40人の代表候補のリストをつくってもらい、そこから招集選手を決める。とにかくJリーグをよく見たい。週末(18、19日)の土日にも3、4試合は見に行く。

 -日本にはマリーシア(ずる賢さ)が足りないと言われますが

 ザック

 まったくその通り。複雑な状況のサッカーではなく、日本のは純粋なサッカーだ。しかし本来のサッカーはこういうものであるべきだ。マリーシアがあってはならない。残念なことだ。本来、私はそういうサッカーがやりたいのだが。私に与えられた時間は少ないが、イタリアサッカーを伝えて行きたい。

 -言葉の問題は

 ザック

 ピッチ上で1人いい通訳がつくと聞いている。でもピッチで怒ったときはイタリア語でも選手はわかるはずだよ(笑い)。

 -今、日本代表はベテラン選手から若い選手への移行期ですが

 ザック

 日本代表は若く、その若い選手たちには希望がある。成長できる可能性がある。彼らが成長していくのは、基本的に各クラブでだ。

 -イタリアサッカーをどうみていますか

 ザック

 長谷部、内田、香川がいるドイツはフィジカル的なサッカーだが、イタリアは世界で最も難しいサッカーだ。イタリアでプレーできたら世界のどこでも通用する。長友と森本は多くのことをイタリアで学んでいくだろう。

 -何を一番心配しますか

 ザック

 私は代表監督になることも、外国で仕事をすることも初めてだ。私はピッチで生きる男で、毎日クラブ監督として練習から見ていきたいが、それはできない。だから東京に住んで、できるだけ多くの試合を見ることにした。全力を尽くしてやっていく。日本語を覚えるには10年くらいいなければならないので、無理だろう。だが、日本のサッカー文化に敬意を払っている。日本の規則に従い、文化に近づきながら中に入り込むような気持ちだ。

 -元代表監督のジーコ氏とは話をしましたか

 ザック

 まだ話はしていない。でも私は自分の頭で考えたい。ジーコの時は状況も今と違うし、先入観なしに自分でいろいろ理解していきたい。イタリアサッカーと日本サッカーをミックスしたものをつくり上げていきたい。だから日本人のコーチを入れることを願い出たのだ。

 -岡田前監督とは以前トリノで会ったそうですが

 ザック

 W杯で岡田監督はよくやっていた。日本は知的な方法で団結して戦った。この団結力が日本の長所なんだ。選手たちはみな、代表を誇りにしていた。ユニホームに執着していた。日本人は言葉にはしないが、心の中に誇りが宿っている。イタリア人は誇りを口にはするが。

 -ところで趣味は

 ザック

 以前は乗馬やテニスをやっていた。どんなスポーツもテレビで見るよ。

 気さくでやさしい人柄だが、言葉の節々には熱がこもった。若いころには兵役義務で空軍に14カ月勤務した経歴を持つ。文化の大きく異なる日本でも、真摯(しんし)に職務に打ち込む姿が脳裏に浮かんだ。(取材・波平千種通信員)