首位札幌が後半ロスタイム5分過ぎ、FW内村圭宏(32)の劇的な一撃で千葉に逆転勝ちした。この日、2位に浮上した清水、3位の松本とは勝ち点で3差をつけており、ホームで迎える20日の最終節・金沢戦に引き分け以上でJ2優勝、J1昇格が決まる。

 内村の逆転弾を演出したのは、最年長38歳のDF河合竜二だった。自陣ゴール前から、相手ゴール前にロングフィードを通すと、走り込んだ内村が右足ワンタッチでゴールにたたき込んだ。前線にボールを蹴る際に狙ったのは、FWヘイスの頭だった。河合は「内村が俺のボールを狙ってくれただけ。『FWに求めるものは、ゴール…お前だけがゴールを狙っておけ』と伝えていた。それを実践できたのが、内村らしいなと思っています」と振り返った。

 河合は帰り際に、フクダ電子アリーナ1階のロビーにかけられていたボードをて、しみじみと語った。「ここまで、長い間やれているなぁ。もう、11年前なんで。毎回、ここに来る度に、あれを見て思い出しますよね」。ボードには、同アリーナのこけら落としとして05年10月16日に行われた、J1千葉-横浜戦の写真と結果が書かれていた。後に日本代表監督になるオシム監督率いる千葉と、2-2で引き分けた横浜のメンバーには、しっかり河合の名前も刻まれていた。

 当時、新たな専用スタジアムのオープンに、サッカー界は沸いた。河合自身「好き。やりやすいんで」と好印象を持っていた。その舞台に、J1昇格をかけた大事な試合で2戦ぶりとなる先発復帰を果たし、燃えないはずはなかった。年齢を感じさせない激しい寄せで、千葉の攻勢を水際で止めた。前半終了間際には、チャージしてきた千葉FWエウトンが近寄ると、怒りの表情を浮かべながら背中を向けた。震える背中だけで、エウトンを威嚇した。

 “札幌の闘将”河合の心を奮い立たせていたのは、ゴール裏からメインスタンドの半分までを、赤と黒に染めた札幌サポーターの熱い応援だった。「ホームなら、もっと心強いんですけど…でも、うちのサポーターは、ホームのような雰囲気をつくってくれた。これだけの雰囲気をつくってくれた、うちのサポーターに勝利だけを届けたかった」

 97年に浦和に入団し、今季で現役生活20年目。02年に浦和を契約満了となり、2度のトライアウトを経て03年1月に横浜に入団すると、同年と翌04年の横浜のJ1年間王者獲得に貢献。11年に加入した札幌でも中心選手として、同年にJ1昇格、翌12年の降格を味わった。J1、J2のカテゴリー問わず、常に最前線で体を張って戦い続けてきた。酸いも甘いも知り尽くしたからこそ、今、サッカー界に思うことがある。

 「若い子が、どんどん活躍できる世界になっている。僕らの代では小野(伸二)、中村俊輔、ヒデさん(中田英寿氏)が開いてくれた中で、若手が活躍できるので、そこは本当に、自分としては、うらやましいと思う。ベテランに、スポットライトは当たらなくていい。ほそぼそ、陰で若手の成長を支えられればいいなと思います」

 「若手に伝えたいことは?」と聞かれると、迷わず、こう答えた。

 「1試合、1プレーの重み…そこを感じてほしいし、本当にその1試合というのは、それで人生が終わるかも知れないんだよ、というのを感じてほしいです」

 後半ロスタイム5分過ぎ…まさに、徳俵に乗った状態で、札幌の昇格と優勝に大きく前進する決勝弾を生み出した。1プレーの重みを知り、1試合に命をかける男・河合の決定的な1プレーが生まれたのは、思い出のフクダ電子アリーナだった。「やっぱり、感慨深いですね」。口元に微笑を浮かべ、河合は会場を後にした。【村上幸将】