浦和DF田中マルクス闘莉王(28)が、5日のJ最終節鹿島戦(埼玉ス)を「けじめのラストマッチ」として臨む。契約満了に伴う今季限りでの退団を浦和の橋本社長に正式に伝えたことが3日、分かった。さらに、来季の海外移籍を想定して、郷里のブラジルから祖母の照子さん(81)を招待。同地に移住して以来、約76年ぶりに来日した祖母の前で、6シーズン在籍したクラブへの感謝の気持ちを示すつもりだ。

 サッカー人生をかけて臨む、覚悟の表れだった。闘莉王はこの日、非公開での練習を終えると、1日に橋本社長と1時間半に渡って直接会談したことを明かした。「自分の気持ちを伝えました」。7月下旬に2年間の契約延長を打診されていたが、長年温めてきた海外挑戦の思いがある。フィンケ体制2年目の来季も世代交代を進めるクラブ側の方針で「正直、そういう(慰留する)感じはしなかった」と確認し、正式に退団の意思を伝えた。

 中東移籍が有力視される中、オランダ1部のトゥウェンテからオファーが届いた。スペイン1部のレアル・サラゴサ、国内では名古屋も獲得を検討している。「レッズを愛しているし、最後までしっかり、レッズの一員として戦いたい」。自らの去就が注目される中で、6シーズン在籍したクラブとサポーターへの感謝を込めてピッチに立つためにも「けじめ」をつける必要があった。

 海外移籍とともに、もう1つ実現したい夢があった。「高齢だから心配だけれど、僕が日本でプレーしている姿を見せてあげたい」と祖母の照子さんを鹿島戦に招待した。2日に、20時間以上のフライトを経て来日。富山県で生まれた照子さんにとって、5歳でブラジルへ移住して以来初めてとなる、76年ぶりの祖国だった。「自分のルーツでもある日本で、サッカー選手として成功したい」と単身で海を渡り、03年に日本国籍を取得した闘莉王にとって、心配をかけ通しだった祖母には、人生の節目に立ち会ってほしかった。

 本拠地で、優勝に王手をかけた宿敵・鹿島を迎えてのラストマッチ。目の前での胴上げを阻止するためには、まず、勝つしかない。「浦和でやってきたこと、それは今でも変わらない。サポーターを喜ばせるため、勝つためにプレーするのがオレのスタイル」。闘将が、赤いジャージーに身を包み、最後の舞台に立つ。【山下健二郎】