<J2:大分2-2横浜FC>◇最終節◇4日◇大銀ド

 カズが決めた。キングが泣いた。横浜FCのFWカズ(三浦知良、43)が、4日のJ2最終節アウェー大分戦に今季初先発してフル出場。右足で今季3ゴール目となる同点弾も決めた。チームは2-2で勝利こそ逃したが、6位に浮上。主将を務めるカズは試合後、今季限りでチームを離れる仲間との別れを惜しんで目を潤ませた。岸野靖之監督(52)の起用法への疑問から心はブラジル移籍との間で揺れていたが、1年7カ月ぶりの90分出場で横浜FC残留へと大きく傾いた。

 MF高地のパスに43歳カズの体が反応した。1点を追う後半5分、相手DFの前でボールを受けると、コントロールしながら右にかわし、反転して右足を振り抜いた。シュートは逆サイドの左スミに突き刺さった。ベンチに走るカズに選手たちが次々と抱きつく。アウェーのスタンドが静まる中、横浜FCベンチはお祭り騒ぎ。その中心にカズがいた。

 「蹴った瞬間、いい感触だった」。カズは今季3点目、Jリーグ通算154点目を振り返った。チームは勢いに乗り、6分後には高地が逆転ゴール。その後も優勢に試合を進めながら終了間際の失点で勝つことはできなかった。それでも、カズは「最高ですね。気持ちいいです」と笑った。

 今季初の先発に気合が入った。「技術、戦術は大丈夫だけれど、問題はスタミナだった。年齢のこともあるし、試合で90分やってないので」と話したが、心配は無用だった。キャプテンマークを巻いて90分間走り続けた。チーム最多4本のシュートを放った。前半終了間際、胸を強打しながら立ち上がると、大分サポーターからも拍手が起きた。

 試合後、カズは目を潤ませた。93年の「ドーハの悲劇」でも、98年W杯フランス大会前の「外れるのはカズ」でも涙を見せなかった男が「40歳を超えると、涙腺が弱くなって」と言った。この試合を最後に、DF早川と戸川、MF小野がチームを去る。「ハヤ(早川)と小野はJ1昇格の時からの仲間だから」。引退を決めた早川と抱き合って「(ゴールは)プレゼントだよ」と告げた。惜別の思いをこめた1発だった。

 ゴールを決め、90分間走りきって、来季が見えてきた。出場機会が激減した時に舞い込んだブラジル2クラブからのオファー。もともと第2の故郷でプレーするのは夢だった。「横浜FCが最優先」と言いながらも、心は揺れた。「選手は試合に出てナンボ」とも話した。「今後のことに関しては悩んでいた」と明かしながらも「今は自分の中にこれだ、というのはある」と、はっきり口にした。

 サポーターへあいさつした後、岸野監督と抱き合った。「まだまだいける。こうやって勝っていこうや」と言われた。「いろんなことを自覚している。年齢的にも毎試合90分は難しいけれど、いろいろな可能性があることが大事」と話した後「今日は横浜FCにチームとして可能性を感じた」と、残留へ気持ちが動いていることを示唆した。

 今日5日にシーズン最後恒例のサポーターイベントに出席し、しばらくは休養にあてる。「ゆっくり考えるよ」と言いながら「2人(早川と小野)がいなくなると、僕が一番古くなる」とも。プロ26年目、44歳の目標はチーム最古参選手として挑む2度目のJ1昇格となりそうだ。【荻島弘一】