<J1:仙台2-1名古屋>◇第29節◇19日◇ユアスタ

 これぞ、ユアスタ劇場だ!

 仙台がホームで名古屋に競り勝った。後半ロスタイム、FWウイルソン(28)がこの日2点目となる決勝弾。采配が的中した手倉森誠監督(45)は退任決定後リーグ戦初勝利でJ通算100勝を達成した。手倉森仙台の集大成となる残り5試合、上だけを見て戦い続ける。

 節目にふさわしい、しびれる幕切れだった。後半ロスタイム、ヘベルチのミドルシュートを巧みなトラップで収めたウイルソンが、反転しながら左足を振り抜いた。「ロスタイム、勝ちを見たいというサポーターの力に導かれた勝利。いよいよここに来て、ユアスタ劇場が開幕した」。これまで何度も終盤のドラマを生んできた本拠地は手倉森監督の言葉通り、最高のシナリオを用意していた。

 主導権を握って後半3分に先制も、すぐさまミスから失点。嫌な展開で指揮官のタクトがさえた。3ボランチに変えてきた名古屋に対し、スペースを突くドリブラー武藤を投入。松下が右太ももを痛めると、田村で守備を安定させた。最後はヘベルチ。「高さ、スピード、パンチ力のどれを取るか。ヘベルチのシュートに期待した」。そのミドルシュートが結果的に最高のパスとなり、決勝点をアシスト。「起用は当たったけど、彼のシュートは足に当たらなかった。それが幸いした」と笑った。

 試合を控えた17日、手倉森監督のはめていた数珠のひもが突然切れた。「これは、おふくろへの思いを込めてつけていたものだったんだ」。母朝子さん(享年72)が亡くなったのは4月27日。葬儀の際にひもが切れた別の数珠と一緒に、クラブハウス近くの土の中に埋めた。どこか、劇的なゲームになる予感があった。

 これでJ通算100勝に到達。ライバルとして意識し、ともに今季限りでの退任が決まった名古屋ストイコビッチ監督の目の前で決めた。「ストイコビッチの前でというのが、縁だったのかな。選手やスタッフ、サポーターの力が注がれた100勝。ただ、仙台がビッグクラブ名古屋と渡り合えるようになったことに、数字以上に成長を実感している」。自身の節目より、クラブの成長が誇らしい。謙虚に、区切りの1勝を喜んだ。【亀山泰宏】