<天皇杯:横浜2-0鳥栖>◇準決勝◇29日◇日産ス

 俊輔のリベンジの舞台に、最後の聖地が用意された!

 横浜が鳥栖を下し、21大会ぶりの決勝進出を果たした。後半41分にMF兵藤慎剛(28)が均衡を破ると、ロスタイムにMF中村俊輔(35)がダメ押しのゴールを決めた。元日の決勝は、中村が数々の名勝負を繰り広げてきた思い出深い国立競技場。くしくも3週間前、リーグ最終節で優勝を奪われた広島との決戦に挑むことになった。

 最後の最後に、この男が輝いた。1-0で突入した後半ロスタイム。掲示された4分が経過しようとした時、2万人以上の観衆の視線は、中村に注がれた。

 相手GKのロングボールを中央でDF富沢が落とすと、ボールが敵陣の右サイドへ転がる。これを中村が拾い、ペナルティーエリアへ。またぎフェイント2回。相手の足を止めると、すかさず左足を振り抜いた。シュートはDF2人の間をすり抜け、ポスト左に当たってゴールに吸い込まれる。勝利を決定付ける主役の一撃に、サポーターもスタンディングオベーションだ。「もう最後だったし、シュートで終わった方がいいかなと。1-0のまま終わるよりは良かった」。今年を締めくくるゴールを、いつものように静かな口調で淡々と振り返った。

 残り2試合を連敗し、9年ぶりの優勝を逃したリーグ戦から3週間、再びタイトルへの挑戦権を得た。しかも決勝の相手は、最終節で逆転優勝を許した広島だ。「僕らにも、もう1回チャンスがある。リーグでいい思いできなかったので、1つタイトルを取れればいい」と雪辱を誓った。しかも舞台は国立だ。

 中村

 改装される前の国立でできるのは2チームしかない。僕にとっては特別な場所なので。五輪予選とか代表でもプレーしたし。いい結果になればいい。

 神奈川・桐光学園時代の高校選手権決勝やシドニー五輪予選、日本代表など、サッカー人生の思い出の詰まったピッチでの決戦に武者震いした。

 リーグ最終節・川崎F戦後はピッチにうずくまり、珍しく号泣した。3日後にはMVPに選ばれたが「タイトルの方がいい」と漏らした。サッカー人生最大とも言える屈辱を味わった「12・7」から22日。必死に気持ちを切り替え、サッカーに打ち込んだ。11月に胆のう炎を患ったが、いまだに腹部に痛みを感じることがある。医者からは手術の選択肢も示されたが、「復帰までに何カ月かかるか分からないから」と食事療法に専念する。それもすべて、目の前に戦いが残っているからにほかならない。

 元日の広島とのリベンジマッチは、1トップのFW藤田が累積警告で出場できなくなった。中村は「オレの1トップもあるし。いや、ゼロトップかな」と笑う。MVPには輝いたが、のどから手が出るほど欲しいのはタイトル。「聖地」で迎える今季のラストゲーム。“忘れ物”を今度こそ、しっかりとつかみ取る。【由本裕貴】