22歳の「忍者レスラー」が、リオデジャネイロ五輪のメダル候補に躍り出た。グレコローマンスタイル59キロ級の太田忍(日体大)は初戦でロンドン五輪55キロ級金メダルのハミド・ソリアン(イラン)に勝ち、勢いに乗って3連勝で決勝進出。優勝は逃したが、2位までに与えられる五輪枠を獲得し、初出場を決めた。

 リオ行きをかけた韓国選手との準決勝、リードされても太田は慌てなかった。豪快な投げで4-2と逆転し、最後も反り投げを決めて10-2のテクニカルフォール勝ちした。スタンドに向かって右こぶしを突き上げ、マット上で歓喜のバック転を連発。「気持ちで勝ちきった」と胸を張った。

 初戦から難敵だった。12年ロンドン五輪王者で、世界選手権も6度制したソリアンに序盤で4点を失った。それでも引かなかった。得意の胴タックルで攻めて第1ピリオド(P)を5-4で折り返すと、第2Pも圧力をかけて7-4と勝利。「金メダルへ、いつかは倒さなければいけない相手」を退けて、波に乗った。

 昨年2月のハンガリー国際で優勝するなど、素早い動きから繰り出す大技で海外勢から「ニンジャ」と恐れられた。しかし、国内で勝てず、同年の世界選手権代表も逃した。2年前から目指したリオが遠のき「東京五輪を狙う」と、投げやりになった。大学の試合に66キロ級で出場するなど「闘う姿勢」は消えていた。

 しかし、世界選手権代表の田野倉が五輪枠の獲得に失敗したことで、再びリオへの道が広がった。「五輪に出られるチャンスは一生に何度もない。絶対に出場権をつかむ」。12月の全日本選手権で初優勝し、五輪挑戦権を獲得した。

 「アジアで勝てなければ五輪のメダルは無理」と話すが、逆に「アジアで勝てれば五輪でも勝てる」と言い切る。「まだまだ可能性はあるし、伸びるはず」とグレコの西口強化委員長もメダル獲得を期待する。五輪王者を破った自信を胸に、太田は初めて挑戦する大舞台でも頂点を目指す。

 ◆太田忍(おおた・しのぶ)1993年(平5)12月28日、青森県生まれ。八戸キッズクラブでレスリングを始め、全国少年大会4連覇、青森・倉石中では全国中学選手権連覇。山口・柳井学園高時代はフリーでこそタイトルから遠ざかるが、新たに挑戦したグレコローマンで全国高校選手権連覇。日体大入学後は本格的にグレコに転向し、14年にアジア選手権2位、15年ハンガリーGP優勝。165センチ。

 ◆リオデジャネイロ五輪予選 アジア予選の後には世界予選の第1戦(4月22日~・ウランバートル)と第2戦(5月6日~・イスタンブール)がある。前回ロンドン大会では、アジア予選で代表に決まったフリー55キロ級の湯元進一、グレコ60キロ級の松本隆太郎が、本番でともに銅メダルを獲得した。