<大相撲秋場所>◇千秋楽◇27日◇東京・両国国技館

 横綱朝青龍(29=高砂)が、横綱白鵬(24)との優勝決定戦を豪快なすくい投げで制し、4場所ぶり24度目の優勝を飾った。本割で白鵬に完敗したが、1敗同士の決定戦では低く当たり、頭をつける本来の相撲で完勝。初場所の優勝後は、横綱になって初めて、皆勤しての3場所連続で賜杯を逃した。師匠高砂親方(元大関朝潮)の「楽をして相撲を取るな」という助言にも耳を傾け、29歳の誕生日となったこの日、復活Vを果たした。優勝回数は横綱北の湖と並ぶ歴代3位の24度目となった。

 花道を引き揚げる朝青龍は、精根尽き果てていた。座布団の雨を受け、通路で待っていた友人の歌手長渕剛と抱き合ったが、「よくやった」の声にうなずくことしかできない。報道陣に囲まれると「本当にギリギリまできていた。最後の一水(滴)しか残っていなかった。もう、それもないよ」とニコリと笑った。

 白鵬との本割は2秒4で完敗した。立ち合いで腰高になり、はね飛ばされ、寄り切られた。「気持ちだけが先に行って、見てるだけになった」。支度部屋に戻ると計48発の鉄砲。付け人相手に立ち合いのけいこを繰り返し、肩から当たっての左差し、もろ手突きを試した。

 優勝決定戦ではそのどちらでもなく、低く頭から当たり、即座に左前みつをつかんだ。出し投げで白鵬を横に振り、右の前みつも手にした。頭をつけると、右を深く差した。先手先手の攻め。最後は下手投げ、すくい投げの連続技で決めた。「立ち合い勝負になると思っていた。低く当たれたのがよかった」。

 賜杯奪回のきっかけは、3場所連続で優勝を逃した名古屋場所千秋楽の夜に受けた高砂親方の助言にあった。「お前も若くない。楽して相撲を取るな。自分の相撲を見つめ直してみろ」。横綱昇進後は、指導される回数も減っていたが、苦しんでいた朝青龍は「楽をするな」の意味を深く考えていた。出した答えが「頭で当たること」だった。先場所までの立ち合いでは、相手の出足を止める張り差しを多用したが、今場所は初日の把瑠都戦から低く速く立ち合い、張り差しは5番だけ。高砂親方も「張り差しこそ楽して相撲を取る代名詞。頭から当たり、攻めの相撲を取り戻す。よく気付いた」と評価した。

 復活の過程ではケガにも苦しんだ。左ひじ、右肩、夏巡業中には右ひざを負傷。周囲に「やってもギリギリの状態だし、もう(復活は)無理かな」と弱音も吐いた。だが、最近は「辞めるにしても、優勝してかっこよく辞めたい」と言うようになったという。

 そして29歳の誕生日に、24度目の賜杯を手にすると「今、29歳か。次の目標?

 ないよ」とポツリと言った。「ケガを治して次もいい結果が出れば」と続けたが、目には力がなかった。この日は初場所同様に土俵上でガッツポーズ。品格を再び問われることは間違いないが、朝青龍自身は初場所後に誓った「反省」の言葉も頭から抜けていた。苦しみ、嘆き、復活した横綱は、先のことは何も考えられない。【柳田通斉】