<大相撲九州場所>◇8日目◇21日◇福岡国際センター

 東前頭9枚目の旭天鵬(36=大島)が、西前頭16枚目の隠岐の海(25=八角)を寄り切りで下した。7勝1敗で勝ち越しに王手をかけ、横綱白鵬(25)らとともにV争いのトップを並走。旭天鵬の人柄にほれ、7月の名古屋場所から懸賞をかけ続けてくれている久志本(くしもと)一家の目の前で、恩返しの勝利を贈った。

 右四つでがっぷり。旭天鵬が、隠岐の海と胸を合わせた。力勝負になった時、東の升席から声が飛んだ。「頑張れ!

 旭天鵬!」。直後、上手投げを打って自分の体勢を整え、グッと寄り切った。勝ち名乗りを受け、1本の懸賞を受け取った。土俵を降りると、再度「テンホーさ~ん」の声援。升席に目をやり、コクリとうなずいた。

 視線の先にいたのは、三重・松阪市で「くしもと整形外科」を開業する一家。黄色い声の主は、長女眞子ちゃん(7)だった。旭天鵬との交流が生まれたのは、4月の三重・津巡業でのこと。家族でちゃんこ料理店に行くと、旭天鵬がいた。記念撮影に応じてくれて、翌日の巡業では手を振ってくれた。

 ファンになった父忠彦さん(48)は、旭天鵬の魅力について「人間的にやさしいし、子どもをかわいがってくれる。応援したくなったんです」と話す。7月の名古屋場所で初めて、旭天鵬への指定懸賞を出すことを決めた。野球賭博の影響でテレビ中継はなかったが関係ない。力士にほれ込んでの「ご祝儀」は、秋場所と九州場所でもやめなかった。

 取組後、福岡国際センターの駐車場で旭天鵬は一家に会った。「眞子ちゃんの大きな声で、頑張れたよ」と言って、頭をなでた。「昨日、部屋に来てくれて、一緒にちゃんこを食べた。名古屋場所から、負け越しが続いているから、勝ち越さないとね」と、懸賞に報いる活躍を誓った。

 この日、白鵬には42本の懸賞がついた一方、旭天鵬は1本だけ。懸賞袋は薄くても、愛情がたっぷり詰まった宝物だ。「勝っていると(疲れは)あまりない。負けてると、今ごろはハーハー言ってるだろうな」。一家は新幹線を乗り継いで、帰路に就いた。今場所はもう観戦に来られないが、旭天鵬は後半戦へ向け、力をみなぎらせた。【佐々木一郎】