<大相撲夏場所>◇4日目◇9日◇東京・両国国技館

 大関琴奨菊(28=佐渡ケ嶽)が、東前頭筆頭の阿覧(28)を寄り切り、4連勝を飾った。春場所中に左手首を痛めたが、ケガの影響を口にせず、好発進した。大関把瑠都(27)が敗れ、三役以上の勝ちっ放しは、大関稀勢の里(25)と2人だけ。6年ぶりの日本人優勝へ向け、賜杯争いを引っ張り始めた。

 左前まわしを、相手の肌にツメが食い込むように取った。琴奨菊が一気に前に出る。土俵際で上手が切れたが、かまわない。体ごと阿覧を寄り切った。2秒9でケリをつけた。初日から所要時間は6秒9、5秒6、4秒2。日に日に決着が速くなってきた。

 「体の反応もいいし、考えたことがやれています。自分は、それだけで満足なんで…」。史上初めて6大関が出そろったことが話題の今場所も、そのうち全勝は2人だけ。「まだまだ全然。1日1日を大切にやっていきたい」と、報道陣の機先を制した。

 3月の春場所7日目。左手首を壊した。痛みで使えなくなった。中日以降、4勝4敗にとどまった。周囲から不振の原因を探られても、言い訳しなかった。場所後に初めて病院に行くと、骨に影響していたが、詳細は完治するまで公表しないと心に決めた。

 「師匠も、膝の靱帯(じんたい)がなくなったまま相撲を取っていた。それを見てますから、周囲には言えないですよ」。万全でないから、場所前の稽古でライバルの稀勢の里に後れを取った。3日連続で肌を合わせ、9戦全敗の日もあったが屈辱を受け流した。

 佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)は言う。「誰でも痛いところがある。それを隠してやることがプロじゃないですか。気持ちの持ち方がうまくなった。今は、どんなことでも動じない」。今場所2日目、大関が3人続けて負けた後、負の連鎖を断ち切ったのは琴奨菊。「そういうのを見ると、強くなったのかなと思います」と続けた。

 本を読み、写経をし、メンタルトレーニングを実践し、心を強化してたどりついた大関の座は、これで4場所目。「気持ち的には穏やかに過ごせているし、1日の流れがいいです」。本場所の流れも、日本人大関に向いてきた。【佐々木一郎】