<大相撲九州場所>◇千秋楽◇24日◇福岡国際センター

 横綱日馬富士(29=伊勢ケ浜)が、5場所ぶり6度目の優勝を決めた。5年8カ月ぶりとなった横綱同士の千秋楽相星決戦で、白鵬(28)を寄り切り、14勝1敗。入院中の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士=53)に約束した最高の結果をつかみとった。

 「勝つことに必死で取った」。取組後、日馬富士が勝因を即答した。低く当たった直後、左上手を取りに動いた。「土俵に上がってから決めた」という勝利を求める策だった。つかんだ左上手で出し投げ。速さで圧倒し、右も差して前へ。その時点で白鵬の右かかとが俵を割っていた。鏡山審判長(元関脇多賀竜)が勝負ありの手を挙げた。

 白鵬に残されたかにも見えた。土俵中央でさらに攻め続けた。行司に慌てて止められた。両力士も館内も戸惑うままだった。「まったく気が付きませんでした。大横綱が急に力を抜いたのでしまったと思いました。(自分の)足が出たのかと思いました」。意外な形で、優勝が決まった。

 春場所以降、4連覇の白鵬と成績を比べ続けられた。横審からは綱の責任を問い続けられた。師匠にも「もっと稽古しろ」「10勝は大関の成績」など厳しい言葉で叱咤(しった)された。「いろいろ経験した良い1年でした」。安堵(あんど)の表情で苦笑いした。

 審判部長として優勝旗を手渡してくれるはずの師匠は、目の前にいない。4日目の13日に膵臓(すいぞう)などを患って入院中。見舞いに出向いたが「自分の相撲だけに専念しろ」と耳元でささやかれた。それからは、取組後の車内からメールで報告。稀勢の里戦で敗れたあとにも「集中して優勝します」と送った。「僕が親方にできることは、相撲を通じて勇気、元気を与えることだけだった」。

 親方や後援者の助言もあり、今年から体質改善に努めた。すき焼きでも肉しか食べなかった食生活。苦手な野菜を積極的に食べた。焼き肉なら、好物の韓国風ドレッシングでサラダを添えた。チャーシューメンはタンメンに変えた。福岡では朝にチャンポンメンとカツ丼。昼に豚肉しょうが焼きと肉うどん。体調も良く、15日間も験を担いだ。

 難産の末につかんだ横綱昇進後2度目の優勝。苦しい日々が続いたからこそ、周囲の支えが身に染みる。「いつも僕の味方。支えてくれた皆さんのおかげで優勝することができました」。親方の耳にも届いたに違いない。【鎌田直秀】