リーグ戦を再開した中日ですが、今、気になる選手がいます。3年目の右腕、梅津晃大投手(24)です。

梅津は交流戦の5日オリックス戦で先発。3回無死から連続四球を出したところで降板を告げられました。試合は3点リード。計5四死球と確かに制球は乱れてはいましたが、無安打無失点のままマウンドを降りなければならなかった思いは複雑だったことでしょう。

先発投手の目安としてクオリティースタート(6回3失点)が定着した中、ベンチはなぜこの段階で降板させるのか。解説の仕事で訪れていた私は放送ブースで率直にそう思いました。

2年目の昨季は故障で後半離脱。今季も2軍調整が続き、ようやく1軍に昇格して3度目の先発で早期降板を告げられ、2軍調整にUターン。1軍昇格後、確かに制球は安定していませんでしたが、通算防御率は1・59と試合を壊すことはありませんでした。好素材の多い中日投手陣の中でもポテンシャルの高さはひときわ目を引く存在だけに、この措置には疑問を感じざるを得ません。

ベンチにとって四球は確かに「嫌なもの」ですが、それは相手チームにも言えます。梅津のように球威があればなおさらです。実際、この試合でのオリックスの打者はまともなスイングが出来ず、安打は許していませんからね。そして四球は同時に「必要なもの」でもあるということを最近、ある男から再確認できたことを思い出しました。

近鉄からメジャーに挑戦し、数々の実績を残した野茂英雄さんです。彼の運営するクラブチームにときおり指導にでかける関係でじっくり話す機会も増えました。そこで「四球なんてどうってことない」という思いを根底に持ってマウンドに上がっていたことが分かってきました。四球の多さは近鉄時代から定評がありましたが「この打者はヤバイ」と思えば意図的に歩かせていたことをうかがわせる発言をボソボソッとつぶやく。まあ「押し出しさえしなければいいや」という感覚で投げ続けていたことでしょう。

もちろん、野茂の能力はずばぬけていたわけですから、どの投手にも当てはまる考え方ではありません。しかし、力で勝負するタイプの投手には必要な考え方のひとつであることは確かでしょう。この「教訓」をここ数年、制球に苦しむ阪神藤浪にも伝えたことがありますが、今の梅津にも言いたいですね。そしてベンチには1軍の先発マウンドに上げると決めた以上、このタイプの投手にはとことん投げきらせるという覚悟が必要だということを強く指摘したい。そうでなければ素晴らしい素材も埋もれてしまうわけですから。(日刊スポーツ評論家)