今年の春季キャンプを視察し、シーズンを戦うにあたって、本命はジャイアンツ、一番の対抗にタイガースを挙げた。戦力を分析した上で、巨人を破るなら、阪神だろう、と。その根拠は、中心選手がしっかりと成長し、計算できる外国人選手がいる。佐藤輝ら話題性のある新戦力が加わり、チームとしてのバランスがよく、期待できると考えた。今季142試合目で、絶対に負けられない戦いにおいて、大山、近本、梅野といった中心選手がスタメンで出ていない。それでも勝てたというのは、矢野監督が我慢強くチームを作り上げてきたからだ。

状態の決して良くない佐藤輝に3ランが飛び出し、伊藤将が10勝目。中野は難しいゴロを堅実にさばいた。新人選手を経験させ、ギリギリの戦いで結果を残した。作戦面でいえば、6回途中で伊藤将から及川にスパッと代えた。8回の島田のダメ押しスクイズも光った。高津監督も同様だが、腹をくくった采配がシーズン最終盤まで優勝を争う要因だろう。選手の力だけではない。こういう采配は監督1年目ではなかなかできないものだ。ヤクルトにマジックが点灯し、厳しい状況に立たされたが、あきらめずに、ここまできたのは、監督がキャンプから布石を打ち、事前の準備、シミュレーションをしっかりと行ってきた成果だ。

付け加えるなら、本来ならば、マツダスタジアムに阪神ファンが押し寄せただろうが、コロナの影響で、ほとんど声援のない完全アウェーの状態。そこで若手の踏ん張りで、1勝1分けに持ち込んだのは、大きい。

もちろん、これで優勝できるかどうかは別で、勝負はゲタを履くまで分からない。それでも阪神の首脳陣は最善の策をとり、やるべきことをきっちりとやっている。人事を尽くして、あとは天命を待つだけ。ここまでの過程は、評価されるべきだ。(日刊スポーツ評論家)

広島対阪神 2回表阪神1死一、三塁、先制右越え3点本塁打を放った佐藤輝はナインに迎えられる(撮影・朝日新聞上田潤)
広島対阪神 2回表阪神1死一、三塁、先制右越え3点本塁打を放った佐藤輝はナインに迎えられる(撮影・朝日新聞上田潤)