日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(40)が16日、沖縄セルラースタジアム那覇で行われている巨人の1軍キャンプを初視察した。ランチ特打の最中には坂本勇人内野手(33)の「1歩目トレ」に着目。ゴールデングラブ5度受賞を誇る名手の意識の高さにうなずき、4年連続12球団ワースト失策中の阪神の後輩たちに「打球捕」の重要性を説いた。【取材・構成=佐井陽介】

   ◇   ◇   ◇

ランチ特打の最中、坂本勇人選手がスルスルと遊撃ポジションに向かいました。練習メニューに入っていたとは考えられません。おそらく自分の判断で空いた時間の「打球捕」を選択したのだと思います。松原聖弥選手、秋広優人選手が打ち込む1球1球に反応する姿を確認して、さすがだなと納得させられました。

「打球捕」の場合、遊ゴロが飛んでくる確率は決して高くはありません。それでもわざわざランチタイムを割いてまで守りに行ったのには当然、理由があったはずです。守備練習といえばノックのイメージが強いですが、ノックには弱点があります。バットにボールが当たる瞬間、ノッカーの体の向きで打球方向が分かってしまうのです。この弱点を補う上でも「打球捕」は大切な意味を持ってきます。

たとえ打球が飛んでこなくても、右へ左へ放たれるボール1球1球に1歩目を出すことはできます。その反応を自らチェックすることで、現時点での体の仕上がり具合も把握することもできます。実戦で立ち遅れないためにも、重要な練習の1つといえるのです。

坂本選手はこの日、全体アップの前に原辰徳監督らと沖宮も参拝しています。自由な時間に限りが出てくる中でも「練習のための練習」ではなく「試合のための練習」に試行錯誤する姿勢は、きっと後輩たちにも好影響をもたらしているのでしょう。たとえば吉川尚輝選手を見ていても、ノックの後にたっぷりと「打球捕」に時間を割いている姿が印象的でした。

もちろん、ノックを多く受けることも大事な作業に違いありません。一方で、日本を代表する遊撃手にはさらにその先があります。本番で失敗しないための準備をどれだけ丁寧に進めているのかを知れば、若い選手の感覚もまた変わってくるのではないでしょうか。

打球に対する反応、1歩目で防げるミスは必ずあります。守備力向上が課題となっている阪神の後輩たちも、長年活躍を続けているプレーヤーの考え方や一挙手一投足に目を光らせて、どんどん吸収していってもらえたらと思います。(日刊スポーツ評論家)

鳥谷氏(手前)と笑顔で言葉を交わす巨人坂本。右は阿部作戦兼ディフェンスチーフコーチ(撮影・河田真司)
鳥谷氏(手前)と笑顔で言葉を交わす巨人坂本。右は阿部作戦兼ディフェンスチーフコーチ(撮影・河田真司)