今年のペナントレースでは、初めて首位攻防戦と呼ぶにふさわしい試合となった。巨人は坂本が失投を逃さず先制弾。先発戸郷も安定のピッチングで広島打線を封じた。これで巨人が1ゲーム差をつけて首位に立った。ここから交流戦へ向け、巨人と広島が競り合いながらリーグを引っ張っていくと感じた。敗れはしたが、広島の何げない1つ1つのプレーに、好調な理由が透けて見えた。

2回。広島は先頭マクブルームが四球、坂倉が中前打で無死一、二塁。続く会沢は右飛だった。バントで送りたいところだが、会沢は打点13と、勝負強さを発揮している。その中で無理に引っ張らず右方向へ打球を運んだ。結果的に二塁走者は進められなかったが、最低でも二走を三塁に進めようという狙いはうかがえた。

0-1の5回。1死から大盛が右翼へ長打。一気に三塁を狙い中継プレーでアウトになったが、ここでも先を目指した根拠はうかがえた。右翼手ポランコの動きは決して機敏とは言えない。さらに送球も緩く、先の塁を奪う隙を見いだしても不思議ではなかった。中継に入った二塁手吉川の送球が良くアウトにはなったが、1点を追う試合展開で1死三塁の形を作れれば、流れを変える好走塁と言えた。この判断は責められるものではないと見えた。

3点を追う7回には無死一、二塁で進塁打を頭に入れた大盛が引っ張って一、二塁間に転がし(結果は二ゴロ)、1死一、三塁とした。得点への形をつくる意識の高さがある。チームとして打線は機能している。

今季、広島の苦戦は予想されたことだった。言うまでもなく、カブスに移籍した鈴木の抜けた穴が大きいからだ。現在、チーム本塁打4本はリーグ最下位。OPS(出塁率+長打率)も.664でリーグ5位。それでも、12勝7敗で好調な滑り出しを見せているのは、この試合の随所に見られた先の塁を奪う野球が徹底されているからだろう。

勝った試合で強さを感じるのは当然のことで、負けた試合でなお、今年の広島の粘り強さを感じたことはインパクトがあった。チーム戦術理解度の高さもあった。鈴木の抜けた穴を違う方法論でカバーする。今季の広島流を見た思いがした。(日刊スポーツ評論家)

巨人対広島 5回表広島1死、大盛(中央)は右翼への長打で三塁を狙うもアウトとなる。三塁手岡本和(撮影・足立雅史)
巨人対広島 5回表広島1死、大盛(中央)は右翼への長打で三塁を狙うもアウトとなる。三塁手岡本和(撮影・足立雅史)