大谷が心配だった。前日の試合で腕に死球を受けたばかり。患部が硬くなって肉離れをしなければいいが、せめて登板は1イニングに限定すべきだと考えていた。杞憂(きゆう)に終わったが、けがに強いことは一流選手の条件。さすがだと感心させられた。

規定投球回と規定打席に同時に到達した。これまでの長い歴史で、誰もやったことがないこと。想像を絶するほど、疲れただろう。メジャーは連戦に次ぐ連戦が6カ月以上も続く。私は救援投手だったが、投球だけでもグッタリきていた。大谷は打って、さらに走った。これまでの体づくりのたまものだろう。28歳は大人の体になって、プロ野球選手として最も充実する時期だ。トミー・ジョン手術から4年目。しっかり右肘もケアしてきたのだろう。

以前から練習はしていたのだろうが、終盤になってツーシームを投げ始めた。投球に横の幅ができた。スライダーを狙う右打者が踏み込めなくなった。直球より球速が出ることもある理由は、ひねるのではなく、直球と同じ投げ方で握りだけを変えている「本物のツーシーム」だから。リベラ(ヤンキース)のカットボールなど「本物」はひねらない。今後、大谷にとって一番の武器になる可能性がある。持ち球に縦に落ちるスライダーも加えた。こちらは、肘の負担が大きいスプリットを減らすことができる。

尋常じゃないシーズンを過ごしたので、来年に向け、しっかり体をケアしてほしい。チームがなかなか勝てない中、孤軍奮闘してきた精神的疲労もあるだろう。投打ともに素晴らしい成績を残したが、まだまだ上を目指していると感じている。ゆっくり休んで疲労を取ってから、次の目標を見つけてほしい。(日刊スポーツ評論家)