今シーズン見た試合の中で、NO・1の投手戦だった。巨人戸郷とDeNA今永の投げ合いは、「エース対決」と呼ぶのにふさわしい戦いだった。

両チームとも、簡単には得点できない覚悟のもとでスタート。初回の戸郷は2死から佐野に四球を与えたが、「絶対に長打は打たせないぞ」という投球。今永も先頭ブリンソンを三振に仕留め、2アウトからの秋広には4球、真っすぐを続けて三振を奪った。

初回の先発投手はいい投手ほど、その日の状態を見るため「手探り」するような投球をするが、そんな気配はまったくなし。何が何でも先取点はやらないという気迫に満ちていた。

投手戦で勝負を分けるポイントは、いくつかある。まずはホームラン。巨人は2回、岡本和のソロで先制し、DeNAは7回に戸柱が勝ち越しソロ。そのホームランを解説したい。

岡本和が打ったソロは、カウント2-2から外角に浮いた真っすぐだった。伏線は1球前の真っすぐ。この球も真っすぐが外角高めに浮いてボールだった。やはり投手心理としてフルカウントにしたくない。その分だけ甘くなった。とはいっても、151キロを左中間に放り込んだ岡本和を褒めるべきだろう。

戸柱のソロは、岡本和以上に見事だった。カウント1-2から見逃せば低めのボールになるフォークをすくい上げた。ここでも伏線になったのは直前のフォーク。高めに抜けてボールになったため、「低めに投げなければいけない」という心理が働く。戸郷は思ったところに投げられていた。しかし、まだカウントはバッテリー有利。戸郷からすれば、もう少し低く投げておけば良かったという思いは残っただろう。それでも体勢を崩しながら打った戸柱を褒めるべきだろう。

そして結果的に試合を分けたポイントは、「執念」と「機動力」だった。3回1死からDeNA楠本が死球で出塁。2ストライクからの厳しい内角球だったが、これをよけずに右ヒジに受けた。巨人バッテリーからすれば、余裕のあるカウントで1球、内角の厳しいところを攻めたかっただろう。一瞬、よけなかったからボール判定されるかと思ったほどの内角球だった。紙一重の判定だが、楠本の「執念」に軍配は上がった。

次打者・関根の1ボールから、ベンチはエンドランを仕掛けた。球種はカーブですっぽ抜け気味だったが、ファウルにはなった。これで巨人バッテリーは強く「機動力」を警戒しただろう。クイックで投げた真っすぐが甘く入って一塁線を破る二塁打となり、佐野の犠飛につながった。

巨人が悔やまれるのは、今永はクイックが得意ではなく、機動力で揺さぶりたかったのは巨人の方。しかし5回の吉川、7回の代走・門脇のときに仕掛けるチャンスはあったが、攻撃的な野球はできなかった。

見応えのある投手戦で、とても楽しかった。両チームともに優勝を意識した戦いが始まった。緊迫した好ゲームを期待している。(日刊スポーツ評論家)