野球選手にランニングは不要ではないかという考え方がある。この考え方は、野球界で推奨されてきた長距離走などでの調整法に一石を投じた。その言わんとするところは、ウエートトレーニング(以下ウエート)によって、ランニングで得られる効果は補完できるんだ、と認識している。

その考え方と一線を画すのがロッテ守護神の益田直也だ。過去4人しかいない通算250セーブにあと32セーブに迫る。その益田の考えに触れ、発見があった。

益田はウエートに取り組んだ時もあった。すぐに筋肉量が増える。すると、ピッチングに微妙に影響が出た。フォームのバランス、腕の振りなどにわずかな差が生まれた。野球選手でもとりわけ投手は繊細だ。ボールが指先から離れる感触、ボールのキレがイメージとずれてしまった。

益田はウエートのメリット、デメリットを踏まえ、自重をベースにランニングにフォーカスしてきた。

一つのメニューとして、外野ポール間(180メートル)を45秒以内で20本、インターバルを加味しつつ最大2往復までで計10本、グラウンド1周(380メートル)を4本で、総計6920メートル。ダッシュ系をおよそ7キロは相当ハードだ。

ロングインターバルで心拍数が上がり、血中の酸素が活性化され、乳酸が除去されやすくなる。疲労の蓄積を防ぎ、回復力が高まる、とその効果を解説してくれた。

さらに聞けば、こうした効果はバイクなら体感しやすいが、ウエートでは得られづらいだろうということだった。なるほど、確かに益田は大きな故障もなく、13年目を迎え、偉業を視野に入れている。

誰かの意見が正しくて、他の意見は間違っている。そんな二者択一で結論を求めるのは望ましくない。ウエートが秘める効力を前面に強調する考え方と、ランニングに活路を見いだした益田は、それぞれのやり方で立派に結果につながっている。

野球選手は自分にあったトレーニング法を考え、トライしてほしい。ウエートによって、ランニングで得られる効果を補完できる、もしくはその逆も、十分に成立する。

私は現役時代、ランニングがあらゆる種類にいたるまで嫌いだった。走りたくなかった。そんな背景があったから、ランニング不要論には非常にひきつけられた。一方で、現役選手の声も聞きたいと感じ、今回の取材に至った。

これは余談になるが、益田のメニューを見て種類の豊富さと量に驚いた。正直な話、私にはちょっと無理だなと。(日刊スポーツ評論家)